第105回
「インドの『アクト・イースト政策』の中の日本」
「ドグラム高地での印中対立―日本にとっての意味―」

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  長野禮子 

 今回は、大きく2つの発表が行われた。まず最初は、ルーパクジョティ・ボラ氏による「インドの『アクト・イースト・ポリシー』とは何か」というものである。ボラ氏によると、インドの「アクト・イースト・ポリシー」の目的は、過去停滞してしまった東南アジアと東アジアの歴史的なつながりに、再びエネルギーを与えようとするものである。特にインドの「アクト・イースト・ポリシー」にとって日本は決定的な部分を占めており、その理由として、第1に、戦略的、経済的国益が日本とインドを接近させており、インドは日本の政府開発援助(ODA)の最大の受領国であること。第2に、インドと日本は、中国への懸念を共有していること。第3に、冷戦後のインドとアメリカとの関係強化が、日本のようなアメリカの同盟国との関係を緊密化させていること。第4に、インドのナレンドラ・モディ首相と日本の安倍晋三首相の個人的関係が日印関係を後押ししていること。第5に、政党に捉われない支持があること、を挙げている。そのため、結論として、今後、インドにとって日本の重要性は増すことはあっても減少することはないとの指摘があった。
 次に、長尾氏が「ドグラム高地での印中対立:日本にとっての意味」を発表。これは6月半ばから8月28日まで、印中両軍がブータンと中国の両方が領有権を主張するドクラム高地で睨み合ったことについて取り上げ、日本の安全保障政策について分析した発表である。まず何が起こったのか、事実関係を整理した後、実際戦争が起きるとしたら、中国側はどのようなシナリオを考えているか、インド側はどのような戦略をもって対応するかについての分析である。
 長尾氏は、この地域での中国側の軍事行動は過去1962年、1967年、1986-87年の3回あり、それぞれ第三世界でのリーダーシップや、中ソ対立、ソ連のアフガニスタン侵攻への対応といった外交的な目的があったと分析している。そのため、中国は「勝利」を演出することに関心があり、「勝利」さえできれば軍事作戦は限定したい思惑があるとの分析であった。それに対してインド側の対応は、限定させずにエスカレートさせる可能性がある。何故なら、例えば、エスカレートさせる方法として、空軍の投入、米露の外交的介入、別の領土を確保して交換を狙う方法などがあるが、どれもインドが有利になる可能性があるからだ。しかも、過去にインドが実際採用したこともあり、発想として持っているとの分析であった。このような傾向から、日本はどうするべきかについての政策提言があった。
 ドグラム地区について日本大使が出した声明は明確なインド支持を意味しており、その点では成功であったこと。平時については、日本は印中国境地域でのインドの防衛力増強に協力して、日本正面の中国軍をインド正面へ分散させる政策をとるべきであり、同時に実際危機が起きたときは、インド支援のため米軍と共にインド洋へのヘリ空母派遣を行ったり、尖閣への自衛隊配備によってインド方面の中国軍をこちらへ引き付ける――などの方法があることが政策として提案された。
 質疑応答では、ドグラム高地から中国軍が撤退した理由は、中国で開かれるBRICS会議にモディ首相に参加して欲しい中国側の思惑があると指摘されているが、その一方で対立の継続は経済的な利益の面から中国にとって損失であることなどから、他の理由についての議論や、中国の行動を懸念する一方で、インドに依存し過ぎることを不安視するブータンの思惑について意見交換が行われた。
(今回は長尾賢博士執筆の「会の概要」原稿を参考に掲載する)

講 師: ルーパクジョティ・ボラ 氏(国立シンガポール大学南アジア研究センター客員研究員)
                  長尾 賢 氏(JFSS研究員・学習院大学非常勤講師)
日 時: 平成29年8月30日(水)14:00~16:00