第118回
『平成30年版防衛白書』の説明会を聞く

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長野禮子 

 今回初めての試みとして、「ネットCM」を作成し、「Kindle」、「楽天Kobo」、などの民間電子書籍市場にも配信され、誰でも無料で見ることができるようになった。また、AR動画を活用し、無料アプリをダウンロードして、ARのページに行くと、そのまま動画を見ることができるという試みも行っているということだ。

 巻頭特集の「防衛この1年」では、弾道ミサイル防衛、24時間365日の任務を自衛隊の各種任務、防衛力整備の主要事業、南西地域の防衛態勢の強化ということで、「スタンド・オフ・ミサイル」などを紹介した。また、陸上自衛隊創隊以来の大改革としての陸上総隊を新編したことにも触れている。本編では、「国際情勢」、「わが国の安全保障・防衛法制と日米同盟」、「様々な自衛隊の活動と取り組み」を三部構成で紹介している。
 
 我が国周辺国の動きとしては、
北朝鮮:米朝首脳会談や、南北首脳会談が継続的に模索され融和ムードが演出される中、依然として我が国のほぼ全域を射程に収めるミサイルを数百発保有・実戦配備していることや、核・ミサイル開発のこれまでの経緯を踏まえると、現在も北朝鮮の脅威に対する基本的認識に変化はない。
中国:2035年までに軍近代化を基本的に実現し、21世紀中葉までに中国軍を世界一流の軍隊にするという目標を掲げており、近代化に自信を持ちつつある。海警が国務院から中央軍事委員会の指揮下に編入され、より軍との繋がりが強くなるという組織改編があった。海警と海軍の連携による活動の一方的なエスカレーションに更に注目する必要があろう。
ロシア:大規模演習「ボストーク2018」を実施し、北方領土(択捉島、国後島)への地対艦ミサイル配備を公表するなど、我が国周辺を含め軍事活動を活発化させる傾向がある。
サイバー空間:他国部隊の妨害やインフラの破壊のため、軍としてサイバー攻撃能力を強化している。諸外国に対するサイバー攻撃が多発しており、ロシア、中国、北朝鮮などの関与が指摘されている。
宇宙空間:キラー衛星(対衛生攻撃のため)の打ち上げ実験を実施し、米国では宇宙軍を創設する動きがある。

 これらに対処するため、防衛省・自衛隊も平成30年度の防衛力整備として、「イージス・アショア」、「スタンド・オフ・ミサイル」、「F-35A」、「護衛艦(新型)・潜水艦」、「SM-3ブロックⅡA」を増強し、サイバー防衛隊も拡充した。

 以上、防衛白書を概観すると、台湾に関する記述が少ないことや、専守防衛という概念に未だ取りつかれていることに疑念を抱く。中国の戦闘機は、かつては南シナ海には出てこなかったが、現在は、自衛隊機の3倍程の最新鋭戦闘機を有し、10年後は自衛隊機の5~6倍になり、それにロシアや北朝鮮の脅威が加わることになる。この3ヵ国の脅威が1つになることも想定しなければならない。その脅威は計り知れない。
 これらの現実を踏まえながらも、未だ「専守防衛」という言葉が随所に散りばめられている。現状のままだと大きな矛盾を抱えながらの安全保障政策を続けることになる。我が国周辺の安全保障環境が厳しさを増している今こそ、好機と捉え見直しの議論を進めてもらいたいものである。
 一方、国民世論とどう向き合っていくかも、我が国の安全保障政策において重要な課題である。一例を挙げれば、イージス・アショア配備について反対世論が表面化したが、これは、北朝鮮だけでなく中国の弾道ミサイルも我が国に向けられていることを大多数の国民が知らないからである。防衛省が発信しない、マスコミも報道しない、結果、国民は知る由もないという構図があるからだ。反対世論が活発になる遠因が防衛白書にないとも言えなくはない。周辺諸国の脅威に対する国民の意識も変わりつつある。客観的事実を明確に伝え、理解を深めることが急務ではないだろうか。 
  
 巻末資料には、「平和を仕事にする―自衛隊員である誇りと使命を胸に―」とある。少子高齢化による自衛隊員の募集環境も厳しく、隊員の育児、介護の問題も大きな課題となっている一方で、厳しい現実に任務が増える傾向が続く中、今後の人的基盤をどうしていくか。我が国の安全保障をAIや外国人に依存する日も近いのかもしれない。

講 師: 倉内 康治 氏(防衛省大臣官房審議官)
日 時: 平成30年9月20日(木)14:00~16:00