トランプ大統領のアジア歴訪と 日米中関係

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政策提言委員・元陸自東部方面総監 渡部悦和

はじめに 
 私は、米国と中国の二大大国による覇権争いに注目しているが、今回のドナルド・トランプ大統領のアジア歴訪を通じて明らかになったことは、将来の世界一の強国を目指し周到な態勢を整える中国に対して、アジア太平洋地域に関する明確な戦略を持たず、自由・平等・基本的人権の尊重などの基本的価値観の重要性を主張することもなく、ワンパターンの「アメリカ・ファースト」を唱え、近視眼的な外交を展開するトランプ政権の危うさであった。対照的に、同盟国米国の危うさを自覚し、その危うさをカバーして、何とかこの地域の平和と安定を維持しようと尽力する安倍晋三首相の姿勢は適切であるが、孤軍奮闘の印象を抱くのは私だけだろうか。
 中国は、「一帯一路」構想に代表されるダイナミックな戦略(多くの問題を抱えた戦略ではあるが)を展開し、アジア太平洋地域から米国の影響力を駆逐し、同地域における覇権を確立しようとしている。ハノイで開かれた習近平国家主席のスピーチでも言及された「2020年に全面的なややゆとりある社会(小康社会)を実現し、2035年までに社会主義の現代化を基本的に実現する。そして21世紀の半ばまでに、富強・民主・文明・和諧・美麗の社会主義現代化強国となる」というロードマップに基づき、世界一の国家になる道を歩み始めている。この中国に対して米国や日本はいかに対処していくのかが最大の論点である。
 
トランプ大統領の自画自賛
 トランプ大統領は、アジア歴訪後に米国で行った演説で、「世界における米国の信頼と地位が、今ほど強くなったことはない」とアジア歴訪を自画自賛しているが、米国内のみならず欧州諸国からも多くの批判が出ているのが現実だ。私は、彼のアジア歴訪に対しては是々非々で評価すべきだと思っている。成果のあった事項は認めつつも、問題点も指摘せざるを得ない。
 トランプ大統領は、今回のアジア歴訪には重要な目標が3つあったと言っている。つまり、「対北朝鮮で世界を団結させる」、「米国の同盟国と『自由で開かれたインド太平洋』での経済協力の強化」、「公正で互恵的な貿易の実現」であり、それらは「アジアで十分に受け止められた」と主張している。
 確かに、「対北朝鮮で世界を団結させる」という目標については、一定の成果があったと評価できる。特に安倍首相との間では「北朝鮮に対して強い圧力で対処する」点で完全な意見の一致がある。また、韓国における米韓首脳会談において、北朝鮮に対する圧力路線で韓国と一応の足並みを揃えている。
 中国やASEAN諸国との間においても、国連安全保障理事会が採択した制裁決議の厳格な履行や北朝鮮の非核化について認識の共有が図られた。ただ、最大のカギを握る中国については、圧力を軸にした連携を確認したが、更に圧力をかけるか対話を優先するかでは意見は一致していないと思う。