「民主トロイカ体制の終焉」そのU
理事・政治評論家  屋山 太郎
 手順踏まず政治主導に失敗
 菅直人首相の退陣は時間の問題となった。菅氏退陣となると民主党を引っ張ってきた鳩山由紀夫、小沢一郎のトロイカ体制が終焉し、民主党は新しく生まれ変わるチャンスを得た。
 民主党の欠点はこの党がどのような国を造ろうとしているのか、理念や理想、目標がさっぱり見えないことだった。個々の議員はそれぞれの理想を語るが、政党としてまとまった理念が全く窺えなかった。
 その原因はトロイカの3人共に国家観や歴史観が欠落していたからだ。
 鳩山氏は米国離れを起こして日米関係を危うくした。「日本列島は日本人だけのものではない」という摩訶不思議な国家観の持ち主だった。小沢氏は極端な媚中外交を展開し、米軍の太平洋のプレゼンスは「第7 艦隊で十分」といっていた。選挙で勝つために、と実現不可能なバラマキ政策をあえてした。菅首相は局地戦を闘うのが専門で、全体の戦局は見えなかった。
 この3人が民主党を引っ張ってきたのだから、党の顔が見えなかったのは当然だろう。
 民主党は当初、政権奪取に当たって公務員制度改革を第一に掲げた。自民党が政権を失うに至ったのは官僚が政治を壟断し、国民の願望を無視する政治を許容したからだ。官益の赴くままに4千に及ぶ特殊法人に8千人が天下り、そこに12 兆円もの税金が流されていた。この天下り体制は税金のムダだけではない。経産省から東電に天下り、それを経産省の原子力保安院がチェックするという逆転システムが、福島原発事故の引き金になった。
 国民の視線の裏側で政治が行われているのを、真っ正面に引き出し、まっとうな民主主義体制にするのが官僚内閣制打破の眼目だった。
 その手段として幹部人事を握る「内閣人事局の創設」「国家戦略局の創設」を公務員制度改革の柱とした。内閣人事局ができ、内閣が人事院の持つ俸給表も握れば、数年で政治は“政治主導”に変化しただろう。国家戦略室はあらゆる分野の戦略スタッフをそろえている部署だ。これさえできていれば、大震災や福島原発事故などに当たって、即座に網羅的に対応できたはずだ。
 トロイカ体制の失敗はこの手順を踏まず、土台のないまま「政治主導」を叫んだことだ。菅氏個人にも大局観がないから戦略もない。

 人事院はっきり廃止すべき
 現在、民主党が国会に出している国家公務員の改正案は当初に出して廃案になったものとは似て非なるものである。人事院廃止と称して新設の「公務員庁」の中に人事院を温存し、焼け太りさせるものだ。こうなったのは人事院を温存したい連合と幹部人事をいじられたくない官僚が組んで現状維持を図ったからだ。
 民主党はトロイカを排除して、第一歩からやり直す新しいスタート台に立った。
 野党の出した内閣不信任案に賛成しようとした鳩山氏には3人しか付いて行かなかった。小沢氏の反乱は見事についえた。党員資格停止の親分に付いて行った副大臣ら4人には政党人たる資格がない。“小沢反乱軍”からは脱会者が相次いでいるという。菅氏のリーダーの資格が全くないから、党内での発言力はゼロになるだろう。
 民主党は外交政策でのコンセンサスを図り、内政面を充実させる必要がある。幼保一元化を「一体化」などといいくるめるのは詐欺だ。人事院もはっきり廃止すべきだ。官僚機構や人事制度にかかわる問題から逃げるな。これこそが政治主導だ。そのさい財務省と手を握った仙谷由人官房副長官と古賀伸明連合会長の動向が民主党再生のカギとなるだろう。
                                (6月15日付静岡新聞『論壇』より転載)
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