「公務員制度改革の実行なくして消費税10%はない」
理事・政治評論家  屋山太郎
 菅首相の私的諮問機関「東日本大震災復興構想会議」(議長、五百旗頭防衛大学校長)は6月末にまとめる第1次提言に復興財源に関する提言をまとめる。10兆円を超えると見込まれる被災地の復興費用を賄うため、期間限定の国債「復興債」を発行したうえで、これを臨時増税によって償還せよという。
 そもそも構想会議の第1 回の会議後に五百旗頭氏が「財源は増税によって賄う」と述べたさい、構想会議に財源の話はまかせていないと猛烈な反発が起こった。構想会議に国民はどういう町づくりをすべきか、産業復旧のあり方、農・漁村の効率的整理のあり方、被災者への対応などを期待したはずだ。そういう復旧をひっくるめていくらというのは最後に政府・与党が勘定をする話だ。財政上理想の復興策通りにいかないから、ここを削るといった話は政治が決める話だ。
 帝都復興院の総裁になった後藤新平は総裁になった4日目に復興4原則を立てた。@復興費は30億円とする。A地主の権利を制限する―などだ。30億円という金額は当時の国家予算の倍だったというから「大風呂敷の後藤」というアダ名がついた。結局半額の予算が国会に出され、結局はそのまた半額に落ちついたという。
 菅首相が与謝野経済財政相を引っ張り込んで無理やり始めた「社会保障と税の一体改革」もどうやら消費税の10%上げに収まりそうだ。というのも09年の総選挙で菅首相が訴えたのも10%、“責任ある野党党首”谷垣禎一氏がつぶやいたのも10%だった。
 この一連の増税や消費税上げの背後には財務省の影が漂っている。影というより財務省にいわされているが如くである。ポスト菅は野田佳彦財務相が適任といわれているが、最大の難点は、あまりにも財務省寄りという点だ。
 国民も消費税10%は“相場”だと感じている。しかしあまりにも押せ押せの動機を怪しいと思われているのだ。財務省はかつての内務省以上に強力で、全官僚を率い、睥睨する存在だ。財務省の力をもってすれば、各省に属する独立行政法人・公益法人を半減させる力があるはずだ。土光臨調の1980年代に特殊法人は113、公益法人は200といわれた。そこで土光臨調は「特殊法人設立禁止令」を出したところ、官僚はこっそりと禁止令のない公益法人作りに励んだ。実態は特殊法人と同じだから後年“大もの法人”をひっくるめて独立行政法人に衣替えした。そのさい、公益法人時代の借金を5兆円棒引きしたといわれる。
 現在では独法、公益法人は4千以上に膨らみ2万8千人が天下り、そこに12兆6千億円が流れている。彼らの存在が民間企業の活動を圧迫していること図り知れない。
 こういう「天下り根絶」の旗を掲げたからこそ民主党が大勝したのである。にもかかわらず、民主党は天下り根絶の決め手となる公務員制度改革を実行できなかった。
 財務省が徹底的に嫌がったのが内閣官房が@官僚の幹部人事(約600人)を握る「内閣人事局」の設立A財務省の主計局をも下知できる「国家戦略局」の設立―の2点だった。
 無駄の根源とその解決策に反対し、現状のまま、官僚政治を続行しようというのが財務省の腹だ。10%消費税を納めて貰う前に、まず全公益法人を半減し、公務員制度改革を実現してから出直してくるべきだ。

                                                (6月22日付静岡新聞『論壇』より転載)
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