書評:西修著『憲法改正の論点』

特別研究員 関根 大助
  
sekine 長年比較憲法を研究している駒澤大学名誉教授西修氏が世に送り出す、改憲論の決定版ともいえるのが本書である。
 この本の構成は、著者の憲法改正に関する見解を述べた第1章から第6章の総論部分と、ここは改めるべきだと考える各論部分の第7章で構成されている。各章の意図や要点が明確であるため、評者のような憲法学の門外漢にも読んでいてわかりやすく、集中力が途切れずに読むことができる。
 第1章では一部の護憲学者の主張を取り上げ、軍事力が外交力と表裏一体であることを無視して外交ばかりを重視する護憲派の「常識」が如何に一般的な常識と乖離しているかを論じ、国家=悪、国民=善と見做す「愚昧」と「打算」の護憲派の姿勢を厳しく糾弾している。
 第2章では、制定された年が古いうえに、改正されずにそのまま現在に至る「世界最古の憲法」となってしまった日本国憲法が、他国の憲法と比べて如何に異様であるかが明らかにされている。「何を変えるべきか、何を変えざるべきか」を見極められるかどうかで人間の英知は問われるが、国家・民族にとってはまさに憲法がそれに当たると言えるだろう。
 第3章では、日本国憲法が如何に誕生したのかを扱っている。少数のGHQの若いスタッフたちによってごく短期間で憲法草案が作成され、そしてそれが成立する過程が如何に異様であるかが明らかにされている。全体戦争に敗れるということの深刻さを実感させられる章である。
 第4章においては、「日本国憲法聖典化のルーツ」として「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」が如何に実行されていたのかが述べられている。今なお多くの日本人に影響が色濃く残るこの禍々しい洗脳を、なぜ日本人は唯唯諾諾とそのまま受け入れてしまったのか、改めて考えさせられる。
 第5章では、第一次安倍内閣の議論を基に、日本の安全保障法制の問題点を整理し解説している。集団的自衛権、いわゆる「駆けつけ警護」、後方支援のあり方が取り上げられている。
 第6章では、著者が考える憲法像、「この国のかたち」について述べられている。「日本国憲法の家」は個人、家族、地域共同体、地方自治体、国家によって重層的に組み立てられ、それらは相互に作用し、協同しながら、よき「家」の建設に努めることが要求される、としている。
 第7章では、具体的に現行憲法にどのように手を加えるべきかが述べられている。「前文」「序章」「天皇」「国際平和および国の安全」「国民の権利および義務」「統治機構」「憲法秩序の保障」「財政、地方自治」「憲法改正」について詳細に論じている。
 わが国では「国家権力を縛る法が憲法である」という憲法観が蔓延しているが、著者は「現代の憲法は、国家に権力を授権し(授権規範)、その権力を制限する(制限規範)と同時に、主体者としての国民自身がいかなる国家体制を築いていくか、その基礎となる法規範とみるべき」としている。一貫して著者は現行憲法を世界の常識と照らし合わせ、時に冷静に時に冷徹に論じ、その異様性を浮き彫りにする。裸の王様ともいうべき護憲派の急所と現在の日本の憲法として必要なものの要点を、情熱を内に秘めつつ理路整然と論じている。改憲派必読の書であり、憲法について何も知らない人々にとっても読まれるべき名著である。



   
         
    著 者: 西 修 
  出版社: 文春新書
  発行日: 2013年8月20日 第1刷発行
   定 価: 本体750円+税
  
    
 
 

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