評論家宮崎正弘氏によって執筆され出版された本は160冊を超えたという。しかも宮崎氏は、フィールドワークを重んじながら、膨大な数の本を書いてきた。氏は年に何回も海外に取材に出かけるが、日本にいる時でさえも、例えば池袋で新しく形成された「チャイナタウン」に週に1回は訪れ、様々な方法で情報を収集するという。この『出身地を知らなければ、中国人は分からない』は、自分の足で徹底的に取材し、鋭い洞察力を持つ氏だからこそ書き降ろせた名著であると言えよう。
一般的な日本人は、ユーラシア大陸のほぼ5分の1、つまりあの広大な国土に56の民族、約13億の人口を有する中国であるにも拘らず、「中国人」を一括りに捉え、単純な自己分析で「中国人を理解している」と勘違いしている人々が殆どである。せいぜい「中国大陸は漢民族と少数民族との問題が複雑で、難しい国だ」くらいのイメージであろう。
しかし漢民族だろうがなかろうが、あのような広大な国土と膨大な人口を抱えていれば、それぞれの地方の人間が異なる特徴を持つのは当然である。言語、習慣、性格、気質、嗜好、文化、更には国家観や死生観まで・・・33ある省は、謂わば、中国の中の「小国家」と理解すべきであると言っても過言ではない。つまり、出身地によって、その人々の有り様が大きく異なっているのだ。
この本によると、現在政治を牛耳るのが上海閥、軍人が多く軍を支配しているのが山東閥、商業が得意なのが広東閥、愛国的で政治議論を好むのが北京閥であるという。北京、上海、広東といった大きな派閥同志ではそれぞれの出身グループで仲が悪く、なかでも人間関係にドライで過度にスマートな出世術を持つ上海人は中国全土から嫌われ、人情が通じる広東人に特に嫌われているという。そういうことを知らずに中国人と接して、戸惑いを覚える日本人も多いだろう。この本ではこうした中国人の差異を、各地方の中国人からイスラム教徒、チベット族、華僑に至るまで詳しく書かれている。
著者によれば、海外に進出しても中国人は中国国内と同じように仲が悪いグループ同士では交わらず、世界中に住む華僑は多くのセクトに分かれ、それぞれが特色を持ち商売の巧拙といった違いがあるという。
日本では反中感情がかつてないほど高まっているが、日本のマスコミは巧みに中国の本質を隠蔽し、未だに日本人は中国人を知っているようで知らない。帯に書いてある「中国は一つという大きな勘違い」については日本のマスコミや教育機関が責を問われる必要があるだろう。
しかしグローバリゼーションが急速に進む現代において、日本列島の位置が移動することがない限り、好き嫌いやイデオロギーに関係なく日中の深い関係は永遠に続いていく。
中国人を友としたい人間もライバルとして見做す人間も、よりリアルな中国人像を知らねばならず、そのためには、宮崎氏のこの新刊は、謂わば「地域別中国人性格地図」として日中問題がこじれている今こそ、座右に置いておきたい名著である。
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