書評:澁谷司著『中国高官が祖国を捨てる日:中国が崩壊する時、世界は震撼する』


特別研究員 関根 大助
 
 「中国経済はこれからも安定した成長を続ける」「将来中国は米国に追いつき追い越す」、こういった考えを持っている人は現在でも多くいる。しかし拓殖大学教授澁谷司氏が書いたこの本を読めば、そんな声はまるで別世界の住人の話のように聞こえるだろう。隣国のこととはいえ、めまいのするようなデータが並び衝撃的なエピソードが紹介されている。それはまさに中国崩壊へのはっきりとした足音である。
 この本の大まかな内容は評者にとってはイメージ通りの中国であるが、やはり具体的な内容を知ると背筋が凍るような感覚に陥る。1990年代以降海外へ逃亡した中国高官の人数と持ち去られた金額、そしてそのための手練手管はあきれんばかりである。社会の腐敗による貧富の格差、それを表すジニ係数の数値を知れば社会主義が夢物語であると改めて思い知る。その上、そもそも共産党のための国家であるため、中国の社会に公平性は存在せず、人権派弁護士は不当逮捕の憂き目にあう。地方政府は暴力団と癒着し土地や建物の強制収容を行う。そこで農民や庶民が中央政府へ陳情に行こうとすると、地方政府は公安を派遣して彼らを妨害する。従って、殆どの陳情は成功しない。
 当然人々はそんな状況を我慢することはできない。1993年に起きた集団的騒乱事件の件数は約8700件だったが、2006年にその数は9万件を超えたと伝えられ、その後中国共産党はこの件数を公表しなくなったという。しかし2012年9月に、2011年には約18万件の集団的騒乱事件が起きていたとの内部情報が伝えられた。近年の中国では集団的騒乱事件が年に20万件以上起きていると推測されるという。中国がいくら巨大な国家であるとはいえ、この数字は異常であり、そして戦慄すべきはその件数が増加するペースにあることだ。中国共産党が治安維持のために膨大な予算と多くの人員を割くのは無理のない話である。
 中国では、対外的な面子を守るために都市登録失業率という数値を発表して失業率を誤魔化し、成長至上主義により財政赤字は増え続け、不動産バブルは死に体とも言うべき状況である。著者は中国の先行きに関して徹底的に悲観的であり、政治改革を行わなければ中国共産党は政権崩壊を免れないところまで来ているが、大きな変革は共産党の自己否定につながるため行うことができず、ただ自然死を待つのみと述べている。そのため中国共産党は延命策として、人々の目を内部矛盾から目を逸らせるために意図的に外部に敵を作り、近隣諸国を攻撃するという手段に走る可能性が常に存在する。
 中国の現状はカオスという言葉が相応しい。しかも国内外にとって非常に危険な状態であり、何かをきっかけに悪い意味で多大なインパクトを世界中にもたらす可能性が高い。中国大陸と向かい合う日本はその影響をまともに受けることになる。本書は単に中国の将来を予測するだけでなく、中国崩壊後の世界への影響についても焦点を当てている。米国、ロシア、EUはどのような行動に出るか、所謂、少数民族はどうなるか、香港、台湾、朝鮮半島はどうなるか、日本はどのように中国と付き合うべきかが論じられている。
 この本は、何の疑念もなく2010年に中国が日本のGDPを追い抜いたと信じている人々や中国の将来を知るための手掛かりを探す人々に広く読まれるべきである。


   
         
    著 者: 澁谷 司 
  出版社: 経済界新書
  発行日: 2013年2月7日 初版第1刷発行
   定 価: 本体800円+税
  
    
 
 

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