書評:福山隆著『日本離島防衛論:島嶼国家日本の新国防戦略』

特別研究員 関根 大助
  
 子供の頃の体験というのは思い出として強く残り、その後の人生に少なからず影響を与えるものだ。著者は、長崎県五島列島の宇久島で中学まで育った。自衛隊に入隊した著者は、陸上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程の授業で、ソ連軍が稚内に上陸したという想定について、「離島を放棄し防衛しない」と主張する自分以外のクラスメートと1対9で、喧々諤々の議論をした経験を持つという。そんな福山隆元陸将によって書かれたこの本には、全編にわたり、離島への想い、島民を犠牲にしたくないという想いが溢れている。そして、その離島を通して実際に見えてくるのが、わが国存亡の危機なのだ。
 本書では、離島を活用した「水際以遠の国防戦略」だけではなく、戦後レジームという米国の半植民地状態を如何に克服するか、について論じるとしている。本のタイトルからは「硬い軍事戦略論」を思い浮かべるが、この本では、柔軟な発想から、離島を生かす戦術、国家安全保障戦略、政策が幅広く論じられている。
  子供の頃の島での思い出、聖書からの引用、離島の実情、民間軍事会社の活用、長崎・五島キリスト教巡礼の旅構想、九州離島屯田兵制度、皇室の自衛隊参加、米軍基地跡地にモスクとイスラム文化研究所の設立・・・このような描写や提案は、柔軟な発想を持つ著者の真骨頂とも言えるだろう。知らずに読めば意表を突かれる、議論を呼ばずにはいられないトピックが満載である。。。。
  離島防衛の前提となる国際情勢については、大幅な国防費の削減を踏まえた米国の今後の大戦略の選択肢を挙げ、また中国の将来の経済成長についても楽観論と悲観論を併記し、バランスを取って説明している。しかしこの2大国の動向がどうなるにしても、日本が一刻も早くより自立した防衛能力と戦略を持たねばならないことは変わらない。著者は中国だけでなく同盟国である米国についても警戒心を隠さない。
  自衛隊の軍事戦略や戦術について、著者は国民の生命と財産を危機に曝す「国内戦」に一貫して反対しており、そして米国のエアシーバトル構想と自衛隊の「水際以遠の国防戦略」を上手く合わせることによって中国に対抗することを主張している。
  この本から見えてくる「島嶼国家日本の新国防戦略」の鍵は、陸海空自衛隊の統合、そして国民全体の防衛に対する意識の覚醒とその統合である。安倍政権やNSCがそのための戦略を打ち出すことができるのか、国民も彼らの尻を叩きつつ注視しなくてはならない。
  歴史を顧みると、刀伊の入寇や元寇における対馬や壱岐、そして米国との沖縄戦といった日本の対外戦争は、本土から離れて住む島民の悲劇の歴史である。非現実的な平和主義に執着するマスコミや文化人に対して、「今世紀においても、島々で暮らす多くの国民を犠牲にしたいのか?」「硬直した戦後レジームの最中、諸外国の利害と野望が激しく交錯する離島という最前線に自分たちが住む気概はあるのか?」と問いたくなる。
  離島を皮膚感覚で知る著者によって書かれたこの本が、大上段に構えた国防論を論じるだけでなく、人の立場に立って物事を考えるという当たり前なことを人々に想起させ、離島という存在が国防においてより大きくクローズアップされることを願う。



   
         
    著 者:福山 隆 
  出版社: 潮書房光人社
  発行日: 2014年6月10日
   定 価: 2,052円(税込)
  
    
 

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