書評:平川祐弘著『日本人に生まれて、まあよかった』

特別研究員 関根 大助
  
  昨今、日本人による日本論は巷に溢れるようになったが、本書の著者は、豊富な実体験と知識に基づく平衡感覚によって日本を見据えており、ユーモアを交えながら言い得て妙、説得力のある言葉と主張は、他の類似本と比較しても抜きん出ている。この本を読むと、世界的で広く、歴史的で深い、大きな横軸と縦軸の視野をもって物事を見る重要性にあらためて気づかされる。今日本に求められ世界に通用する人材とは、表層の事象に安易に囚われないそういった人間であろう。
 思わず膝を叩くような指摘や表現のオンパレードであるこの本の章立ては、「序章 日本人に生まれて、まあよかった」「一章 国を守るということ」「二章 本当の『自由』と『民主主義』」「三章 戦後日本の歴史認識をただす」「四章 生存戦略としての外国語教育」「五章 世界にもてる人材を育てる」「終章 『朝日新聞』を定期購読でお読みになる皆さんへ」となっている。
 本書では特に戦後の教育とマスコミに対して、諧謔を弄しつつ辛辣な言葉を投げつける。著者曰く、安倍晋三がまともなのは、「日本の新聞はスポーツ欄しか読まない」と嘯いていた岸信介の孫として、大新聞の言うことをまともに信じていないからである。また、左翼系大新聞の論説通りに行動した戦後教育の優等生である岡田克也、菅直人、仙石由人は、元旦から朝日を拝まずに朝日新聞を拝んでいた、など終始この調子であり、本書を通して読めばその面白さがよく分かる。
 国際問題や歴史問題についても、「日本は過去においてマルクスを日本語訳からの重訳で中国に伝えて社会主義や共産主義が人類の理想であるかのごとき間違った夢を与え、多大のご迷惑を中国人民におかけした」と謝罪するのがいい、といった調子である。
 かつては軍国を謳い戦後は奇形左翼として国を売る朝日新聞とは真逆の「反大勢」の人生を歩んできた著者は、朝日新聞を「節目節目に国民をミスリード」「オオカミ少年」だと断じている。「吉田証言」と「吉田調書」に関して醜態をさらし、正に現在「炎上」が続く朝日新聞の「逆神」(言ったことが悉く外れる人間の事を指すネットスラング。言ったことの逆をいけば当たる)ぶりは、ある意味非常にわかりやすい。そろそろ多くの国民が気づいていいだろう。
 この本の大きな特徴は、語学に関して多く論じていることである。それに関連している大きなテーマは、五章のタイトルにもなっている「世界にもてる存在を育てる」ことについてだ。海外経験が豊富で語学の達人である著者ならではの主張が述べられている。
 努力が足りないと言われればそれまでだが、語学にも海外留学にも苦しみ抜いた評者は、現代における「洋行」のリスクもよくわかる。よって、外国語の学習や海外での生活や挑戦を殊更煽ろうとは思わない。普通の日常を生きるだけならば、決して無理をする必要はない。しかし、国家の活力を保つには、異なるものやリスクにあえて触れようという気概をもった人間が必要であることも事実である。
 安倍首相は日本を取り戻すために、教育を取り戻さなくてはならない。自分と家族、郷土と国家を愛し、他人と世界を愛することができる「もてる」人間、広い視野をもって自己と他者を愛するが故に、戦うことができる誇り高い人間を育てるために。この本を読んでそんなことを思った。



   
         
    著 者:平川 祐弘 
  出版社: 新潮新書
  発行日: 2014年5月20日
   定 価: 780円(税込)
  
    
 

ホームへ戻る