日中間に領土問題はない
常務理事  井 晉

 日本は、1885年から再三にわたって尖閣諸島の現地調査を行い、単に無人島であるだけでなく、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重に確認した。明治政府は、1895年1月14日に現地に尖閣諸島の魚釣島に標杭を建設する旨の閣議決定を行い、正式に日本の領土に編入した。この日本の領土編入措置は、国際法上の無主地先占の法理に基づいて、正当に領有権を取得するための行為でした。
 他方、中国は、1968年に尖閣諸島周辺海域に石油資源が埋蔵されている可能性を知った後に、藪から棒に尖閣諸島の領有権を主張し始めた。すなわち、尖閣諸島は無主地ではなく中国領だった、あるいは尖閣諸島を下関条約で台湾と共に中国から割譲したのであって、尖閣諸島は中国の領土であると主張している。中国は、領有根拠が国際法上の正当性をもたないにも拘らず、1992年に「領海および接続水域法」を制定して、尖閣諸島を中国領と明記した。
 尖閣諸島周辺海域における今日の日中間の鬩ぎ合いは、日本と中国の政府公船が尖閣諸島周辺の領海で、それぞれの国内法を執行しようとしている結果である。この抗争は既に消耗戦の様相を呈しており、この夏の参議院議員選挙の頃に、中国の政府公船による船体の衝突あるいは武力を行使して、海上保安庁の巡視船を「中国の」領海から追い出しにかかるといわれている。このような状況に至ったとき、日本の巡視船は、中国公船による危険な行動を逐一映像に収め、国際社会に公開することが期待される。
 尖閣諸島周辺海域における中国の政府公船の跋扈が報道されると共に、多くの専門家と自認する人がこの問題を評論するようになった。専門家であるなら、論評する際の文言に注意深くなければならない。巷間、尖閣諸島の帰属を巡って日中間で争っている事実があるから、日本政府が「領土問題はない」を繰り返すのはおかしい、あるいは、日本は「領土問題がある」ことを認めるべきだとの主張が散見される。このような表現は、一部の親中国マスメディアの思うつぼであることに気がつかなければならない。日中間に「領土問題はない」のである。
 日本が「領土問題はない」と繰り返しているのは、尖閣諸島の無主地先占による領土編入措置(領有権取得)は国際法上の問題(疑義)ではないことを意味している。中国は、『冊封使録』の記述を根拠に、尖閣諸島は中国領であり日本の無主地先占は国際法上無効だと主張しているが、『冊封使録』には赤尾嶼が琉球地方との界であるとの記述があるだけで、それ以西が中国(明・清)領と書いてない。したがって、それ以西は無主地なので、日本の無主地先占は国際法上有効な領土取得になる。
 琉球政府と明国や清国との間で、貿易船である進貢船が約500年間に170回以上、皇帝の使者の冊封使船は約450年間に23回それぞれ往復していた。この事実から、琉球国と明国や清国間の航路は、琉球人が熟知していたことが分かる。冊封使は、冊封使船の水先案内人だった琉球人から聞いた航路上の島嶼の名前を『冊封使録』に記述しているのである。また、尖閣諸島は台湾の付属諸島とする国際法上の根拠も全くない。一部のマスメディアと自称専門家は、日中間に領土問題があることを日本に認めさせ、日本の領有根拠が国際法上疑義があることを認めさせることを意図している。
 次に、尖閣諸島問題は、日本が国際司法裁判所に付託して、公正な第三者による解決を目指すべきだとする意見が散見される。この意見は、第三者による公平な解決案として尤もらしく装っているが、「領土問題」を認めることと同じ延長線上にあることを知らない筈はない。国際紛争には、政治的紛争と法律的紛争がある。国際司法裁判所は、国家間の法律的紛争しか審理しないのであり、日本が付託することは、尖閣諸島の領有権に国際法上の問題があることを自ら公表することを意味する。
 国際法上の正当な領有権に基づいて、かつ実効的に支配している尖閣諸島の帰属について、日本が国際司法裁判所に付託することは、中国を利するだけである。日本の領有根拠を否定する中国が提訴することはあっても、日本から付託することは、百害あって一利なしであると言えよう。
 これに対して、日本は、竹島領有権に対する韓国の領有根拠が国際法上の正当性がないと主張している。韓国が現実に日本の領土である竹島を占拠している事実から、竹島の領有権について国際司法裁判所に提訴することは重要である。国際司法裁判所で領有権存否の判断を得ることは、竹島を占拠されている日本にとって十分意味があることである。

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