理事・政治評論家
 屋山太郎



  

TPP参加で我が国の農地法・農協法の見直しをせよ

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加するかどうかで政界は民主、自民両党とも真っ二つに割れている。背後で強力な影響力を行使しているのは農協中央会だ。この農協の反対で日本は各国とFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を結べないできた。農協は農業を守れば国が栄えると云わんばかりだが、この20年間で農業生産額は11兆円から8兆円に減った。工業製品も飛躍的に伸びないから、日本経済はジリ貧状態から抜け出せないでいる。日本は貿易立国と云いながら、貿易依存度(輸出入額をGDPで割ったもの)は30%程度だ。ドイツが72%であることを見ると、日本のジリ貧の主因は貿易が少なすぎることにあると見ていい。ここ20年の成長率で2020年までいくと、日本人の一人当たりのGDPは韓国・台湾に追い抜かれ、遥かに後れをとることになる。途上国のマレーシアと同水準になる。このマレーシアが米国とFTAを結べなかった理由は、サービス分野で門戸を開くことが難しかったからだ。しかし今回、マレーシアはTPP交渉をきっかけに国内改革を断行しようとしている。もし、日本が今のままならマレーシアに抜かれることになるだろう。日本はマレーシアに倣って、TPPをきっかけに農業改革や他の規制改革をやるチャンスだ。
 貿易は引力のような関係で、近い国と大きな国と交わるのが効率が良いと云う。ドイツが東ドイツを抱えてなお栄えることができたのは周囲に仏、伊という大国があったからだ。TPPは日本に近いマレーシア、シンガポール、オーストラリアに加えて、遠くに大国アメリカがいる。日本再生のチャンスと見るべきだ。
 最大の難問は農業改革だが、展望は十分にある。コメのコストは小規模農家だと1俵(60s1万4千円前後だが、15ha規模以上になると6千円以下になる。コメの国際価格が3千円だとしても、反収の多い品種への改良や更なる大型化を目指せば国際価格を下回ることができる。これまで減反を強いられ、品種改良も禁じられていたが、このくびきを一挙に解き放てば、日本のジャポニカ米は輸出産業の花型になり得る。
 田んぼの効率的集約、規模拡大を進める上での障害は田畑の自由売買を困難にしている農地法だ。用途を農業に限っても、農地の売買が自由になれば土木業など他産業がどっと参入してくるだろう。
 この農地についての売買自由化を阻んできたのが農協中央会だ。農協はコメや他の農産物の販売を一手に握って莫大な手数料収入を得てきた。農家が商社から肥料や飼料を買うと農協は商社に文句をつける。ある農家が他から肥料を買ったかどうかは農協が預金通帳を見ればすぐわかる。作物を他に売ってもすぐわかる。「優越的地位の利用」だが、独禁法上適用除外になっている。この農協の特権を剥奪するのは政治的に困難だろう。唯一の解決法は新規の農協の設立を自由にすることだ。ここから農協の競争が始まり、凝固した農協、農村の形がほぐれてくるだろう。農業問題の解決は農地法と農協法の改正に尽きる。
 「国民皆保険は保険業参入の非関税障壁として壊される」との主張があるが、これはTPP参加国の関心事項ではない。多様な参加国のある中で、アメリカだけが採用しているルールを押し付けることもない。そういう押し付けができないからこそ、WTOのドーハラウンドが壊れたのである。

                 
                                                                                                                                     (10月26日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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