理事・政治評論家
 屋山太郎



  

不毛に終わった日韓首脳会談
―いま、東アジアは間違った歴史認識に振り回される時期ではない―
 
 野田首相と韓国の李明博大統領との会談は全く意味のない会談に終わった。野田首相は李大統領との初対面の際、「李大統領は未来志向の大局観を語る政治家だ」との印象を受け、新しい日韓関係を拓こうとしていただけに、今回の会談にはガックリきたことだろう。 
 韓国の「従軍慰安婦」問題は実は全くの虚構の話なのだ。戦時中「従軍看護婦」、「軍属」という職種は存在した。内地では工場用員として兵役外の男子は「徴用」された。女学生など「挺身隊」として工場に配備された。この時代「慰安婦」は公認で、陸軍が進出した基地に慰安所の経営者が出張って「慰安所」を設営した。襲撃を受ける可能性のある地域では基地の中に“間借り”をした。慰安婦の中には韓国で親が娘をキーセンとして置屋に売り、その置屋がキーセンを慰安所に送ることはあったようだ。これは当時としては“商行為”であり軍が強制的に慰安婦として連行してきた事実はない。軍が残した何千枚の指令書を点検して明白になっている。この結果、中学校の教科書から「従軍慰安婦」という単語が消されたのである。 
 韓国人が従軍慰安婦にこだわるのは、日本人の吉田清治という詐話師がいて「済州島で女狩りをした」という本を出版したからだ。しかしこの女狩りを検証した済州島の女性記者が島内の古老に聞き廻って「事実でない」ことが実証された。ところがその前に吉田清治作の“女狩り”がテレビドラマとなって韓国民を憤激させた。一度出来上がってしまった映像は、いくら否定しても消えない。 
 韓国政府はことあるごとに日本政府に謝罪しろという。日本側も面倒になって「すみません」と応ずる。「ならば応分の賠償をせよ」という繰り返しが始まったのだ。村山内閣では基金を創って“慰安婦”だったと自称する人たちに慰謝料を払ったこともある。 
 しかし日韓関係の基本となるのは1965年の日韓基本条約に伴う日韓請求権、経済協力協定だ。この中に賠償請求権問題は「完全かつ最終的に解決」とある。同協定には議事録が付属しており、この中に「将来起こってくる問題も全て含む」と念を押しているのである。「基本条約締結時に取り上げられなかった」と韓国側はいうが、それも含んで解決されたのだ。外交当局や国際条約の専門家なら、条約を一読して理解できるはずだ。国内からそういう声が出ないのは“政治ネタ”として何度も利用できると考えているからだろう。 
 北朝鮮は金正日総書記が17日に死去したと19日発表した。韓国は直ちに北に対して危機対応体制をとった。これに先立って韓国巡視船の隊員が中国漁船の船員に刺殺され、中韓関係はより緊張しつつある。さらに大局を見れば、中国の膨張政策にアメリカは周辺国と共に封じ込め政策で対抗しようとしている。アメリカが中東から軍を引いて、新たな中国封じを展開しようという時に、韓国は無実の件で日本に文句をつける。この外交音痴は度し難い。 

                                                                                                                                     (12月21日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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