理事・政治評論家
 屋山太郎



  

地方分権を阻む官僚・中央集権政治からの脱却
―みんな・維新の会案と自民・公明・民主案―

 大阪維新の会の勢いが増している。橋下氏提唱の「都構想」に楯ついたら次期総選挙で対立候補を立てられることは必至だ。そこで各党とも都構想関連の法案を整備しようと作業グループを立ち上げて検討を開始している。しかし、自・公案も民主党案も官僚が手を加えたのが歴然とし、国会に提出しても「維新の会」が満足するようなものは皆無だ。
 都構想は実現ののち、道州制に道を拓く構想で始められた。ところが国交省が先廻りして道州制になった時の国の出先機関のあり方を「出先機関改革」としてまとめている。中身は中央集権を強化し、中央が出先機関を通じて地方を指揮するという発想だ。
 地域主権の考え方は、極端に云えば、究極的には国の権限を地方移譲し、国は外交、防衛、財政、司法、警察などに特化するもの。改革をどこから始めるにせよ、今後のあらゆる改革は道州制の方向に向いていなければならない。改革が一挙にできないのをいいことに、国交省の出先機関改革案なるものは、地方に事務を委託する際、国が指揮権限を持つという逆行したもの。これはかつて国の権限を地方に「機関委託事務」と手渡したものを取り戻そうとする議論だ。官僚の改革は全くの後ろ向き志向なのである。
 各党がまとめた「都構想関連法案」のうち、みんなの党と維新の会の合同案は「道府県+市」から「都+特別区」へというもの。これに対し自・公案と民主党案は「市」から「特別区」へ変更するが、「都」にはならないという。「都」になることに反対なのは、従来の地方自治法の方式を根本から変えることはイヤだということだろう。
 「都+特別区」へ移行するプロセスについて、みんな・維新の会案は@大阪府・市の協議会で結論を出しA関係自治体の議会の同意を得てB政府で決定・告示する―というものだ。
 ところが自・公案は@総務省と協議したのちA協議会で結論―と協議会の決定前に総務省との協議を義務付けている。民主党案も@「市町村・道府県と国が協議・調整したのちA協議会で結論を出せと、地方自治のあり方について総務省や国を噛ませることになっている。
 加えて最終決定に至るのは、みんな・維新案が関係自治体の議会の同意で政府決定となるのに対して、自・公、民主案は共に関係議会の議決のあと住民投票を義務付けている。
 自・公案も民主案も住民自治のあり方について、国が露骨に口を挟もうとする思惑がむき出しだ。地方分権が叫ばれて30年、国の出先機関の「原則廃止」(閣議決定)さえ全く進まないのは官僚が口を出して潰すからだ。
 大阪都に移行するために必要な法改正について、みんな・維新案は「協議会の結論を尊重し3ヵ月以内に法制上の措置」を求めているのに対して、自・公案は「迅速に」とか民主案は「政府が検討」と期限をぼかしている。
 これで中央集権政治から脱却できるのか。

                                                                                                                                           (4月4日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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