理事・政治評論家
 屋山太郎



  

大飯原発再稼働
―危機を乗り越えた野田首相、橋下市長の英断―

   野田首相は関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を決断した。6月8日記者会見し、再稼働の決断を下した理由を説明した。
 「原発が日本の産業活動にも国民生活にも不可欠」と述べ、国民や原発立地県に理解を求めるための妥当な決断だった。
 福島は第1原発が致命的な事故を起こした原因は@過去の貞観地震による津波の地層より下部に建設した結果、津波で破壊されたA予備電源が切れても支障がないとの前提で建設されていた。東北電力の女川原発は貞観地震の津波を認識して、更に高い場所に建設された。このため地震で原子炉は停止したが、津波被害は免れ破損していない。要するに福島第1原発は明らかに技術的ミスを犯していたのであって、これをもって全原発を否定するのは科学的ではない。
 原発への恐怖感は長く続くだろう。米国でさえスリーマイル事故のあと25年も新規着工できなかった。日本も恐らく何十年かの後遺症が残るだろう。米国は新規建設のない間、稼動を効率化することで、出力は事故前の2倍を出していたという。
 日立や東芝の技術者は異口同音に、日本の原子炉が世界最高水準にあると自負している。世界中が原発をやめるわけではない。世界の新規建設の計画は約500基にのぼる。日本の最高の技術を提供することが、最良の“原発対策”ではないか。
 現在日本の原発は全基が止まっているが、これによる9電力会社の財務は悪化し、かろうじて黒字を保つのは中国電力だけだ。
 経産省の試算によると原発を再生エネルギーなどに置き換えると、電気料金は2・3倍になるという。
 大阪の橋下徹市長は大飯原発の再稼働に強く反対したが、結局、容認に転じた。夏の需要期に計画停電が実施された場合の市民生活への影響を担当部局に検討させた結果だという。私も福島原発事故のあと、計画停電に直面した。戦時中の計画停電というのは、家庭の電気を止めて電車や工場だけは動いていたものだが、現在の計画停電は地域ごとに停電の時間を割り振られる。
 A地域からC地域に行こうとすると真ん中のB地域が計画停電で3時間電車はストップ、その間ひたすら待つという経験を何度か味わった。事業も社会生活も停電期間中は全部ストップすると考えた方がいい。病院や高齢者の熱中症対策はどうなるのか。原発リスクは万全の安全対策によって避けることが可能だが、市民生活のリスクは眼前に展開しているのに避けようがない。橋下氏が大飯再稼働容認に転じたのは政治家として賢明だった。
 夏が過ぎたら原発を止めろという議論は間違いだ。原発は止めたり点けたりし難いから、電力供給のベースとなる。足りない時に火力、水力を使う。原発をベースにしなければ電気料金が高騰するのは必至だ。野田首相の決断は、決められない政治の中で秀逸だ。
                                                                                                                                           (6月13日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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