理事・政治評論家
 屋山太郎



  

常識ある党として
―小沢氏離党後の民主党―

 小沢一郎氏の分党騒動は93年に自民党を脱党し、新生党をつくって以来、今回の民主党離党宣言まで4回政党を変わったことになる。これまで小沢氏が新党をつくる度に、新しい可能性を求め追求するものと理解してきた。小沢氏自身はあるべき理想を語らなかったが、意中に大きな理想を抱えているものと想像してきた。しかし小沢氏が国家のあるべき将来構想を持っているのかどうか、全く疑わしい。
 小沢氏は離党に至る理由として「やるべきことをやらないで、マニフェストにない増税をやることには反対だ」「我々は国民の生活が第一と言ってきた。愚直にその道を追求する」という。小沢氏は政権交代時の鳩山政権の幹事長だった。改革をやろうと思えば何でもできる立場にあったが、どでかい改革に手をつけたかどうか。「国民の生活が第一」であることに間違いはない。それが将来にわたってどうすれば続くのか。
 小沢氏は政権をとってどのような日本を造ろうとしているのか。発言をどう拾ってきても小沢氏の発言から将来の日本の姿は浮かんで来ない。鳩山氏と共に日米関係を危うくした実績。中国に600人を連れて行った朝貢外交。どれをとっても小沢氏が将来の日本を構想しているとは思えない。
 小沢氏は党の重鎮としての重みに欠けているのが、単に我儘な人物として済ますわけにはいかない。政治家としての人格に欠ける致命的な点があるのではないか。
 小沢氏の秘書3人が政治資金規正法違反で有罪判決を受けた。小沢氏はこの時点で議員バッヂをはずすのが当然だった。或いは議会での政治倫理審査会に出て自ら弁明すべきだった。しかし小沢氏は一切の弁明を逃れ恬として恥じなかった。
 更に本来、政党というものは各人の異なる意見を妥協しつつ、集約して党の政策として打ち出すもの。党内民主主義が確立していなければ、その党は独裁的になる。
 日本では二大政党では意見を集約できないから1区3人の中選挙区制度が良いと短絡するが、どこの国で中選挙区制度をやっているのか。民主主義というものは、一挙にまとまらないが、最大多数を納得させる最良の方式なのだ。
 民主党は寄り合い世帯であるが故に、党内で審議を重ねた末に多数決で決めるという風土がない。その民主主義を弁えない最たる人物が小沢一郎氏である。まともな党なら強制控訴をされた段階で、自ら退くか、退くことを進言する人物が出て当然だ。
 小沢氏は前回の総選挙で党の資金を独善的に使って120人の子分を当選させた。党のカネで党中党を作ったのである。その子分を藩屏として党内の批判を押え込み、野田氏が命を賭けた「税と社会保障の一体改革」を潰そうというのである。これは独裁或いは独善というべき振る舞いだろう。小沢氏なき民主党は常識のある党に成長し、政権を託すに足る政党になってもらいたい。

                                                                                                                                           (7月4日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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