理事・政治評論家
 屋山太郎



  

政策なき政党に国家を担う資格があるのか

 民主党の小沢一郎元代表とその支持グループが衆参両院に新会派を届け出た。会派名は「国民の生活が第一」で衆院が37人。参院が12人。それでも民主党・無所属クラブが衆院で250人を占めるので、内閣不信任案は通らない。民主党内に残った鳩山由紀夫氏やその支持グループが呼応すれば野田内閣が倒れる可能性があるが、そうなれば野田佳彦首相は総辞職ではなくて解散を選ぶだろう。民主党の惨敗は確かだが、小沢・鳩山両グループも致命的打撃を負うことは必至だ。従って、自公両党から内閣不信任案が出ても、同調するには至らないだろう。
 “壊し屋”小沢氏の手腕からみると、今回の小沢氏の“反乱”は中途半端で、しかも将来の展望がまるで見えない。小沢氏の思惑違いに終わったのではないかと見る所以だ。
 その理由の第一は前回の総選挙で誕生した小沢グループは120人と云われた。それが今回小沢氏について出たのは3分の1に過ぎない。3分の2は義理はあるが、ついて出る理由に乏しいと大方の議員は言う。そういう雰囲気を知っていながら、小沢氏が敢えて野田降ろしに踏み切ったのは何故か。
 衆院議員の任期はあと1年余であり、場合によっては早期解散の場面もあり得る。こういう時期に無役の立場に置かれることは小沢氏にとっては我慢ならないだろう。小沢氏が前回120人もの同志を当選させたのは党の政党助成金をふんだんに使ったからだ。党内では党の金で「党中党」を作ったと言われた。このため現在の執行部は「小沢氏にだけは金を握らせない」思惑で一致している。その大義名分は小沢氏が「政治資金規正法」の刑事被告人の立場にあるというものだが、小沢氏にとってはこの上ない意地悪だ。
 そこで執行部揺さぶりに出たところ、引っ込みがつかなくなったという見方が一つ。
 もう一つの見方は、小沢夫人が岩手県の小沢後援会幹事に送った手紙が衝撃的過ぎたために、そのニュースを帳消しにするために新党ニュースをぶち上げたというものだ。
 この見方を穿ち過ぎという人もいるが、新党を立ち上げるにはあまりにも準備不足過ぎる。決まりセリフは@消費増税反対 A脱原発だけである。「増税の前にやることがある」と小沢氏は言うが、鳩山首相時代の小沢幹事長は何かやるべきことをやったことがあるのか。或いは、今「何をやれ」と言うのか。一切の説明なしに2つの単語を繰り返しているのが小沢氏で、“反執行部”という感情以外に何か論理があるとも見えない。
 近く新党名が決まるとそうだが、政策の中身については小沢氏に一任するという。政党というのは思想的体系に裏付けられた政策を打ち出し、同志が集合するものだ。小沢氏の外交政策は何か。「生活が第一」というのは具体的には何なのか。大阪維新の会も同じことを言っているが、その奥には「維新八策」がある。「小沢氏とは組めない」わけだ。

                                                                                                                                           (7月11日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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