衆院総選挙
―乱立する政党、日本の将来を担う政党はあるのか―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 本来、小選挙区制度は二大政党制を指向する制度だが、今回はなんと諸派を除いて12政党が乱立することになった。このため選挙制度を「中選挙区制度に戻せ」という議論が民主、自民の二大政党内から真面目に出ている。しかしこの中選挙区制の考え方は誤りだ。多党制を指向する考え方は政権が常時、連立政権であることを容認する。イタリアは冷戦まで50数党が乱立し、政権は比較第一党のキリスト教民主党が主導する連立政権を続けてきた。
 もし日本で中選挙区制度を続けたとすれば、比較第一党の自民党が常に連立の相手を選別して取り換え、政権に居座る状況が定着したろう。その時の自民党は連立相手に気を遣って、政策は常時、曖昧なものになる。いま安倍自民党は「憲法改正」や自衛隊の「国防軍」への昇格を標榜している。真正保守を目指すからには当然の主張だろう。安倍氏は衆院で過半数を取り、いずれ参院でも過半数を取り、理想に迫りたいと思っている。しかし政権の維持を真っ先に考え、公明党との連立が前提になると、憲法改正を叫ばなくなる。岸内閣の頃叫ばれた「憲法改正」が論争の中から消えたのは政権維持の方便を優先するようになったからだ。
 小選挙制度の下で、なぜ12もの政党が乱立するようになったか。
 要は308もの圧倒的議席数を与えられた民主党に国民が失望し、民主党に託した期待がばらばらになって、各党に散逸したということだろう。前回、選挙戦での民主党の大看板は「天下り根絶」「公務員人件費の2割削減」「国の出先機関の廃止と地域主権の確立」「2万6千円の子ども手当」「最低年金月額7万円」などだった。しかしこの中で完全な形で実現した項目は皆無だ。鳩山、菅政権で何も成果を出さないうちに、野田佳彦首相は「税と社会保障の一体改革」の名の下に、消費増税だけを断行した。誰の願いで公約もしていない消費増税をやったのか。言わずと知れた財務省の要望だろう。この省は与野党の党首をしょっ引いてきて、二人に言うことを聞かせる力があることを証明した。
 みんなの党は公務員改革が何も進んでいないと、橋下徹氏の日本維新の会と合併寸前のところまで行った。日本維新の会の最大眼目は道州制の実現だが、それには「中央集権の打破」と叫んでいる石原慎太郎氏の協力を得るのが最適だと、党代表に迎えた。
 民主党を離党した小沢一郎氏の「国民の生活が第一」の言い分は、野田民主党はマニフェストを何も実現していないというものだった。この結果、嘉田由紀子滋賀県知事を担ぎ出して表看板とし、実は昔の民主党の公約を担わせたのだ。
 民主党が何も実現しなかったからこそ、公約のテーマを実現せよとする政党が乱立した。
 原発廃止は民主党政権の途中で突発した事件であって、この問題をどう扱おうと官僚制度の問題に決着がつくわけではない。

                                                                                                                                           (12月05日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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