衆院選挙制度改革の行方
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 自民党の石破茂幹事長は昨年11月の自民、公明、民主3党の合意に基づき、衆院選挙制度改革の自民党案を今月中旬までにまとめる方針を示した。公明、民主両党や合意に加わっていない政党も自民党案をたたき台にして改革案をまとめることになろう。
 自民党の中では中選挙区制度に戻した方が良いという意見が意外に多い。識者の中にも小選挙区制だと二着で落選する候補者の票が死に票になるから、1区で3人程度の中選挙区が良いという人がいる。かつて公明党は1区3人の中選挙区を150区作って総定員を450にする案を示した。民主党は同党が大勝した09年の衆院選で比例区80人の削減を公約したことがある。こうした主張は自民大勝と共に変わったようで、自民党は今回、比例区定数を30削減し、衆院定数を445にする案を基に叩き台を作るという。
 現在の小選挙区比例代表並立制は94年に導入された。それ以前、衆院選挙は大正14年から70年間にわたって1区3~5人の中選挙区制度で行われていた。その中選挙区制度を自民、新進党などの若手がまず「廃止決議」を行って、第8次選挙制度審議会に答申を求めた。
 中選挙区制度は同一選挙区から同じ政党の候補者が複数立つため、利益誘導の競争になる。政党が揚げた政策を訴えても票は相手方に行くかも知れない。従って当時の自民党の政策などは「自由社会を守る」といった当然至極のものばかりだった。国のカネで自分の村の村道を造る、公民館を建てる、というのが国会議員の常套手段だった。一方で派閥の親分は得体の知れないカネを撒いて子分を増やした。田中角栄氏などはロッキード裁判中、無所属でありながら、自民党内に田中派100人を抱えた。
 こういう金権腐敗が公然と行われるようになったのは政権交代がないからだ、というのが選挙制度審議会の総意だった。政権交代を期待するとすれば小選挙区制度しかないと、小選挙区300が決まった。あとの200(今は削減して180)を比例区で残したのは、公明、共産党など小党が救われないからだ。新制度がまとまる間際に、小選挙区と比例区で“重複立候補”できるというアイディアが出された。小選挙区なのに2人、3人当選するのはおかしいとの議論を招いたが、10万票で当選、他党の9万票でも当選というのは死に票を少なくする意味がある。但し複数当選のお蔭で中選挙区論が台頭してきたとすれば大きな勘違いだ。
 過去3回の衆院選は自民296、民主308、自民294と大きくぶれた。これは小選挙区制度の特徴だから普通のことだ。但し今回の民主党の惨敗は、同党が政権担当能力を備えていなかったからで、直ちに担当能力を持った第2極が台頭してくるはずだ。
 政治記者を何十年もしてきた感想を一言いえば、あの金権政治の見苦しさを二度と見たくない。中選挙区に戻すとすれば、今度は税金である政党交付金で同士討ちをすることになる。

                                                                                                                        (平成25年3月6日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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