日米同盟の強化
TPP参加でアジア太平洋地域での新たなルール作り始まる―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 安倍首相のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加表明によって、日中関係は新しい局面を迎えた。日中平和条約締結後、東アジアに「日・中・韓」の東アジア共同体を設立しようとの機運が広がっていた。中国側は「東亜共同体」と呼び大いに乗り気だったが、日本国内から「3ヵ国では中国に吸収される」との懸念が出てきた。そこで3ヵ国にASEAN(東南アジア諸国連合)の10ヵ国を加える構想に発展した頃、第一次安倍内閣が誕生した。
 安倍氏は13ヵ国の経済連携でも、なお中国に求心力が働くことを恐れた。これにインド、豪州、ニュージーランドの3ヵ国を加えた16ヵ国にしてバランスを図った。域内で軍事、経済のバランスが取れるようにしたのだが、マハティール氏(元マレーシア首相)は「中国に対して日・印では軍事、経済両面で均衡がとれない」と評した。安倍氏がこれに米国を加えたいと言い出すことは、これまで築いてきた構想を壊しかねない。社会主義市場経済と純粋な自由経済とでどのような経済連携体制ができるのかもわからなかった。
 そこに降って湧いてきたTPP話である。当初、チリ、シンガポール、ブルネイなど小国の経済連携構想にアメリカが突如参加の意志を決めたことは単なる貿易上の利益追求ではないだろう。環太平洋の名は、明らかに“中国抜き”の政治的な意味を持つ。16ヵ国のアジア経済連携の枠内で沈思黙考していた安倍氏も突如、目覚めた。
 マハティール氏が言ったように日印では中国に対抗できない。TPPを日米軍事同盟を強化するものと見做せば、軍事も経済も一体化し、強固なものになる。
 1979年イランで革命が起こり、中東で最強と言われたアメリカの同盟国が倒れた。その翌年、イラクのサダム・フセインは国境問題を理由にイランに攻め込んだ。犬が象に向うほどの無謀な戦いだったが、イランの米製戦闘機には部品補給がなく、あっという間に空軍がやられてしまう。その様を目の当たりにして改めて軍事同盟と経済の連携は一体のものであることを悟った。
 安倍首相は3月15日、TPP交渉参加を表明した際、記者会見の冒頭でこう述べている。
 「TPPの意義は、我が国への経済効果だけにとどまりません。日本が同盟国の米国と共に新しい経済圏を作ります。そして自由民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々が加わります。こうした国々と共に、アジア太平洋地域における新たなルールを作り上げていく・・・こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことはわが国の安全保障にとって・・・大きく寄与することは間違いありません・・・」
 日本が中国との距離をめぐって悩んでいたのは聖徳太子の頃からだ。日本は取り敢えずTPPの枠組みの中に自分を納める道を選んだ。正解だろう。国民の約80%が「嫌う」という国とは一線を画すしかないだろう。
                                                                                                                        (平成25年3月20日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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