農家を利用する一大金融機関と化した農協
―コメ農家を死守しTPPに反対するその本音とは―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 農政のガンといわれた減反政策見直し論が急浮上してきた。経済の成長回復の中で聖域なき構造改革を追求すると、最も目を引くのは農政、なかんずくコメ政策だ。農協はTPP反対を激しくぶち上げているが、農政の問題が叫ばれ出したのはTPPがきっかけではあるが、コメ政策が、いかに矛盾に満ちたものであるかが浮かび上がった。
 政府、自民党内で集約されつつある案は5年で減反政策を終焉させようというものである。戦後、農政の柱はコメ産業を守る一点張りできた。他産業の所得が向上すると、それに均い合ってコメ価格を上げてきた。上げ続けた結果、過剰米が極度に増えて、70年代には古々米を何兆円分もドブに捨てた。この農政に批判が高まった結果、減反政策がとられることになった。この間、貿易自由化交渉では農産物等5品目は聖域とされた。日本では工業製品では他国に譲るものが殆どないから、農産品を守る限り、他産業で得るものは何もない。その現状が、ここ2、30年続いてきた。
 ではコメ農家は保護され続けて裕福になったのか。
 2010年の営農類型別年間所得を見てみると酪農農家は年収850万円。このうち年金や雑所得の合計はざっと100万円である。花卉農家(観賞のための花栽培)や野菜農家の収入はざっと600万円、このうち年金と農外所得はざっと半分である。年金を貰う老夫婦が手伝って農業が成り立つ型を示している。因みに酪農、花卉、野菜農家には国の補助金は殆どいかない。
 コメ農家はどうか。コメ農家の平均所得は450万円でコメ作の収入はわずか50万円、年金が200万円、農外所得が200万円である。この営農類型別年間所得を見てはっきりわかることは、競争を制限して保護してきた品目(コメ)ほど貧乏な農家はないということだ。
 それが年々判明しつつあるのに、なぜ農協はコメ農家を“死守”しようとしてきたのか。
 1955年に農家所得の67%を占めてきた農業所得は2003年には14%に下落している。年金、被贈等が一貫して増えているのは農家の高齢化が進展しつつあることを物語る。
 JA(農協)は必ずしも農業を発展させなくとも自ら発展できる仕組みに変貌した。JAの正組合員は500万人、準組合員も500万人。正組合員の中には土地を売って農業をやめた非農家金持ちが多い。この資金を利用して農協は、車のローンや住宅ローンで儲ける。この金融事業を増やしたくて農協は準組合員を増やして、融資総額を増やす。いまや農協ではなく、農業を名乗った一大金融機関であり、儲けの主たるものは農産物、肥料など生産財の売買ではない。特権を利用して銀行や地方銀行がやるローン分野にはみ出している。
 農協というものは生産物の販売、肥料や飼料の販売で農家を有利にする存在のはずだ。
 日本のように農業を農協が自ら発展するために利用している国は無い。


(平成25年10月30日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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