日本版NSC・特定秘密保護法成立
―自民党正統派による国家の基本的機能の整備―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 安倍政治の軸は国家の基本となる機能をまず整備するという原則に立っている。長い自社対決の国会で、自民党は常に多数を持ちながら、国会運営を憚って、社会党の嫌がる法制は避けてきた。かつては農水省に「課」を設置する代わりに防衛庁の「この予算を落とせ」というような取引が日常的に行われていたのである。非武装中立の社会党にとっては“成果”だろうが、自民党にとっては正統の政策を曲げられたに等しい。
 安倍晋三氏が自民党内で2度も総裁に担ぎ上げられたのは自民党内に沈潜する“正統派”が糾合し易い状況ができたからだろう。かつてなら派閥の締め付けで思うような動きがとれない事情もあった。世代が若返って自らの思想、信条を政治にストレートに反映させる雰囲気も安倍政治を後押ししている。
 第1次安倍内閣で手がけたのは、教育基本法の改正、憲法改正に必要な国民投票法の制定、防衛庁の省昇格である。省昇格というのは単に「庁」を「省」にしたという意味ではない。省になれば予算を直接要求できるという画期的な違いが出る。
 第2次安倍内閣は第1次の延長線上にあり、従って、国家安全保障会議(日本版NSC)を設置する成り行きは当然だ。国際、国内の情報を集約し、国防、テロなどに対する総合的戦略を立てる不可欠の部署である。そもそも先進国にこのような種の部署がない方がおかしい。この組織に付随して必要なのは特定秘密保護法だ。組織と保護法は一体のもので、組織だけでは情報は集まらない。日本に教えた情報は洩れるというのが世界の常識だったから、洩れない法整備をして信用を確立する必要がある。
 以上は原則論だが、秘密保護法は昔の治安維持法になるというデマゴーグまで交じる中で同法は強行採決されて成立した。
 そもそもこの法律は強行採決されるような法律ではないのに、なぜ全会一致にできなかったか。問題はだれがどこまで秘密と決めるのかが定かではなかったからだ。石破自民党幹事長は秘密と判定する第三者機関をどうするか別に法律に定めるという。もともと秘密保護法は国民を不安にさせるものではないのだから、誰もが納得する第三者機関を作ればいい。
 菅内閣当時、中国漁船による海上保安庁巡視船への体当たり事件が起きた。仙谷由人官房長官は衝突事件の映像を秘匿した。保安官の一色正春氏がビデオで流して国民が知ったが、一色氏は責任を問われて辞職した。この事件は当然、国民の知るべき範囲に属し、一色氏が罪を問われるいわれはない。この奇妙な事態を生んだのは「秘密の範囲」を決めておかなかったからだ。菅・仙谷氏はビデオを伏せておいて、検察に圧力をかけ、船長を処分保留で帰国させたのである。帰国させなければ胡錦濤主席が来日しないかもしれないと怖れたからだという。ビデオで国民が何が起こったかを知れば、政府は検察に政治力を振るう暴挙はしなかったに違いない。


(平成25年12月11日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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