安倍総理大臣の靖国参拝
―中韓に告ぐ。冷静に正しい歴史を学べ―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 安倍晋三首相の靖国参拝について米国務省、在日米大使館から「失望した」とのコメントが出されたが、日本側からも米国には「失望した」と感じたのではないか。これに先立って米政府筋から「日本はなぜ中国や韓国と仲良くできないのか」との感想が洩れてきた。安倍首相の“右翼的体質”が中・韓両国を苛立たせているとの見方もある。
 この際、米国、中・韓両国の見方は敢えて間違いであると断じておこう。歴史的経緯をよく説明すれば、米国は理解するだろう。
 安倍氏がかねて主張してきたことは「戦後レジーム」からの脱却だが、これは戦前の日本に回帰することではない。私なども含めて、軍国主義の時代を知っている日本人は民主主義国家になって良かったとつくづく思っている。明治生まれで大正時代に青春を送った私の父親の世代は純粋な民主主義を経験し、それが軍部の増長で、軍国主義化していく過程を体験している。この世代には軍人嫌いが極めて多く、安倍氏を強く支持しているのもこの層が多い。一方で戦後から60年、2世代経って、日本人として生まれ変わったような若い世代も安倍シンパが多い。
 戦後レジームは頭を低くして、人に目立たずひっそりとして生きる体制だった。自衛隊を保持しているが、自らの憲法解釈によって「集団的自衛権は行使できない」という。中・韓にはひたすら頭を下げて波風を立てるなという生き方を強いられた。一つの象徴が“河野談話”で最近、産経新聞が談話全文をスクープしたが、証拠も定かでないのに「強制性がありました」と詫びているのである。尖閣列島などは中国の公式地図では1971年以前、釣魚島という中国名は一切記されていなかった。中華圏に属する中国、韓国は古来、日本を征伐する国と見做してきた。数百年に亘る干渉に対して607年聖徳太子は隋の煬帝に宛てて書を送り、対等外交を通知した。以来日本は中国大陸とは公の関係を持たず、最後は鎖国を国策とするに至った。この間将軍、足利義満らは明との密貿易を行なって富を得た。日中政府関係が希薄でも、互いに必要とするものを交易したわけだ。安倍用語ではこれを「戦略的互恵関係」という。
 中国共産党軍と日本は直接戦ったことはない。韓国とも戦ったことはないのに、なにゆえに両国が日本の首相の靖国参拝に文句をつけるのか。ケチをつけているだけだろう。
 中・韓との不仲について朴槿恵大統領は「ドイツが頭を下げて欧州統合(EU)が実現したことを見習って欲しい」(仏フィガロでのインタビュー)などと述べている。まだ日本は頭を下げていないと言わんばかりだが、独・仏の間には共通のキリスト教という土台があり、共に紳士の教養を共有していたことも学んで欲しい。朴氏がいう「歴史問題」とは何なのか。慰安婦問題のことなら、過去に不道徳な商売が存在したこととなじり合っても仕方がない。弁償しろと言うなら、すでに日韓基本条約で支払い済みの話だ。

(平成26年1月15日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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