地方の首長に国の方針を変える権限はない
―「原発」「普天間」「オリンピック」―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 湯河原の里で陶器や書画の制作に没頭していると聞いていた細川護煕氏が突如、小泉純一郎氏と組んで東京都知事選に出馬すると言う。その出馬の最たる理由が「脱原発」だというから驚いた。東京都は1300万人を抱える首都とはいえ、行政的に見れば一地方自治体である。そこで、細川氏が当選して「即刻、原発をやめる」といって国のエネルギー政策をストップできるのか。
 2人の元首相の思惑は、東京都が「脱原発」を宣言すれば世界に与える衝撃は大きい。オレもオレもと世界中の原発が止まるかのように思っているようだが、これは“少女の夢”のように果敢ないものではないか。まずお隣の中国は原発をあと50基造る計画だそうだが、計画をやめてくれるだろうか。もしやめてくれたら代替エネルギーの争奪戦が勃発することは確かだ。
 いま、日本の原発は全基止まっているが、それを埋め合わせるために買っている燃料費は年間3兆6000億円に及ぶ。この事態が長引けば、日本の貿易立国という国是自体が危くなる。「使用済み核廃棄物を捨てる場所がないから止めろ」と小泉は言う。このテーマは全世界が背負っているもので、今後、全世界が英知を集めて解決策を探るだろう。原子力物理学者の中で、「先行きの見通しはゼロ」と言う人の方が少ない。
 細川氏はIOCで決まった「オリンピックを返上すると言えば全世界が感銘し、世界中に脱原発の運動が起こる」と言う。狙いは世界に夢を発信することで、都民生活はどうなるのかとの視点が皆目ない。御歳76歳だからオリンピックまでは考えなくていい、ということなのか。1億円の献金を突かれて8ヵ月で政権を投げ出した際の無責任さが抜けていないのではないか。
 民主党は細川支持、本来、民主党の支持母体だった連合は舛添支持、自公両党も舛添支持に固まりつつあるが、小泉氏の次男、進次郎氏は敢えて党方針に逆らう意志を見せている。親子であれ政党人として軸を追求しないと、進次郎ブームは将来、萎んでしまうのではないか。
 “細川・小泉の乱”で改めて念を押しておかねばならないのは、一地方の自治体に国の方針を潰せる権限はないということだ。東京都内に原発はない。地方自治体の議会455が「脱原発」を可決したそうだが、仮にこれらの自治体で国の方針が決まるとしたら、国会議員は何のために選出されたのか。
 新潟の泉田裕彦知事は「東京電力の再建計画がおかしい」と強く批判しているが、知事にエネルギー計画を決める権限は与えられていない。沖縄の普天間基地を辺野古に移転することについても、あたかも市長選が基地の決定権を左右するかの如く報道されてきた。市長選は世論の一部の表明であって、国防の最高責任を持つのは総理大臣だ。エネルギーも国防も自治体は最高権限をもっていない。


(平成26年1月22日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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