内閣人事局発足
―財務省人事は同期の狎れあい?―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 安倍晋三首相が第1次内閣の頃から手掛けてきた「内閣人事局」が5月末に設置された。官僚の人事は年次と序列で歴代、次官が作成してきた。この結果「局あって省なし」「省あって国なし」の官僚人事が何十年も続いてきた。この官僚主導型、縦割り行政は明治以来の官僚内閣制をなぞったものだ。国家を形成する段階では巧妙な仕掛けだったと感心するが、戦争、戦後復興、グローバル化と世の中が変化する際には、変化への対応や進歩への足を引っ張る。
 安倍首相がアベノミクスを掲げて、デフレ脱却を果たす寸前にあるのは、財政再建一点張りで硬直した財務省と対決したからだ。選挙で選ばれた政治家が、政治の成否について責任をとるのは当たり前で、財務省は20年不況、デフレが続いても責任をとったことがない。こういう無責任体制を断固やめる。政治家が責任をとるためには人事もこれまでの役所の当てがいぶちではダメだ。
 各省の審議官以上600人の人事は今後「内閣人事局」で評価される。人事評価をする局長には3人いる内閣官房副長官のうちの1人。今回は加藤勝信氏(衆院)が当てられた。
 安倍首相は人事局発足式の訓示で「省庁の縦割りは完全に払拭される。国民、国家を念頭に置いて有能な人材を適材適所に配置することが皆さんの仕事だ」と気合を入れた。これが5月30日のことだが、6月11日に麻生財務相は木下康司次官を退任させ、新財務次官に香川俊介氏、主計局長に田中一博氏を当てる人事を決めた。木下、香川、田中の3氏はいずれも昭和54年入省で、同期が続けて財務次官に就任するのは極めて異例だ。加えて次官は香川氏のあとは田中氏と目されており、同期が3年続くことになる。
 以上の3氏の能力について判断する気はない。言いたいのは「内閣人事局長」たる加藤副長官も納得した人事なのか。或いは財務省内で身内で勝手に固めた人事なのか。因みに麻生財務相は麻生内閣時代「内閣人事局」構想に反対していたから、「人事局なぞ無視する」ということなのか。
 人事局を設置したこと自体が官僚に対する牽制になるのだから、勝手に次官に同期を3人並べるようなことは許されない。特に財務省は官僚の中の官僚と言われる省である。その省が人事局と無関係に勝手に人事を発表するのは政治を舐めている証拠だ。
 このさい年次で1年ずつ次官をやるなどという悪慣行はやめた方が良い。良い次官なら3〜4年やらせる抜擢人事を確立すべきだ。1年ずつ交代させるから、次官は省のために名を残そうとする。
 おまけに加藤勝信氏も財務省出身の54年組である。同期が4人で談合したとは思いたくないが、“ご都合”が良すぎるのではないか。首相は「女性公務員を3割に増やす」と言っているが、法務省など女子がいない。役所人事採用方式も根本から変えるべきだ。
(平成26年6月18日付静岡新聞『論壇』より転載)

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