県議会議員号泣会見
―透けて見える地方議会の不埒な現実―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 大泣きに泣きながら、使途不明金について弁明になっていない弁明を怒鳴り散らす県議会議員がいたのには驚いた。兵庫県西宮市選出の野々村竜太郎前県議のことである。
 同県議は3年間にわたる使途不明の金1800万円を県議会事務局に返却したそうだが、この金額は県議の“事務費”としては桁違いに高額過ぎるのではないか。国会議員でさえ文書交通費は月に60万円である。年間で720万円になるが、これは隠れた月給とも言われ、実際に皆が皆事務費用に使っているわけではない(これも再検討の要あり)。
 先ず言いたいのは野々村氏が公の場で泣き叫んでいること自体、日本人として恥ずかしい。「男は泣かない」という躾さえ受けてこなかった人物が、公の職に就くなどは私の常識にはない。古風な道徳だという人がいるだろうが、私は小さい時から武士道の初歩だと教わって育った。
 こういう人格未熟な人物を県議に当選させた西宮市民の“選球眼”を疑う。
 次にこういうデタラメな請求がまかり通っていたことに驚いた。議会の事務局というのは県議会なら県庁職員、市議会なら市職員が出向していて、行政部門の一部局のようなものらしい。県や市当局が最も気を遣うのは県議会、市議会である。早い話、県・市は予算を議会で通して貰わねばならないから、県議や市議に職員が強く出られない。それどころか常時、機嫌をとらねばならないから、請求書をチェックして項目を確かめるなどということもしなかったのだろう。
 議員が職員を自前で採用したらどうか。雇用主は議員だから、今と同様、雇用主の意を汲むことになるだろう。米欧ではまず先に議会が誕生し、事務作業をする吏員を雇った。政策や給与はすべて議会で決める。官吏の給与も議会が決める。従って官吏が仕事を増やして「予算をとる」といった発想がない。
 ところが日本の議会は中央も地方も、まず官僚制度ありき、だった。これでは官僚独裁となるから中央に議会を創った(明治22年)。地方で市長を“民選”にしたのは戦後である。いま日本は官僚体制が先に出来て、その体制に民業が組み込まれているのを必死に振りほどこうとしている。安倍首相が叫んでいる“岩盤規制”の最たるものは農業と医療分野だ。これほど官僚が食い込んでいる分野はほかにない。加えて地方分権だが、これは統治機構の改革そのものだ。
 地方議会がたるんでいるのは西宮市だけではない。青森県平川市では議員20人のうち15人が選挙の買収容疑で逮捕されている。大阪市長の橋下徹市が府・市合体と行政区の再編を叫んでいるのは行政経費の革命的節約を狙っているからだろう。
 各地方議会は給与や経費を抜本的に見直して、予算、決算は議会だけでなく、第三者の会計事務所の承認を得るようにしたらどうだろう。


(平成26年7月23日付静岡新聞『論壇』より転載)

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