世界中が支持する「集団的自衛権行使容認」
―非武装中立平和主義の幻想続く国内左派―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 第2次安倍晋三内閣が誕生した時、米国ではニューヨーク・タイムズ紙を筆頭に、ホワイトハウスの内部からも「日本に右翼政権、誕生」「ナショナリストの危険」などと、安倍新政権を危ぶむ声が溢れた。
 安倍氏が日本を再度軍国主義体制に導くのではないかと危惧しているかのようだった。
 一方、日本の野党の惨敗は予期せざるほど酷いものだった。一般に政権交代と言えば与党だったA党が減り、野党のB党が議席を増やして政権交代というのが普通だ。日本の現行、「小選挙区比例代表制」はこうした政権交代を構想して創られた。しかし2012年の総選挙は左側半分が瓦解し、政界の土台が変形するほどの地盤変化をもたらした。政界を右から左に広がっている台地だとすれば、左半分がへこんだだけではない。立っていられないほど地盤が瓦解したのである。安倍氏が立っている台地は右半分。その真ん中に立っていても、選挙前からみれば、右翼に位置する。
 右翼の怖いところは戦前の日本のように、闇雲に軍事力を増大させたがることである。米英両国が日本の海軍力の増強を嫌って5・5・3の軍縮を決めたのも、自らが覇権を確実に握りたかったからだろう。
 日本政界で左側の台地がなぜ崩落したのか。1つは安全保障に対する民主党の無知である。鳩山由紀夫首相は「抑止力」の意味を全く知らなかった。日米中の3国で話し合えば平和は保てると思い込んでいた。次の菅直人首相は自分が自衛隊の最高指揮官だと知らぬほどの国防音痴だった。こういう手合いと組んでいたのでは野田佳彦首相もまともな政治、外交はできない。
 この不安感が安倍自民党をかつぎ上げた。安倍氏が憲法改正論者であること、軍事にかかわる体制を糾すべきであると主張していたことは国民衆知の事実だったからだ。
 非武装・中立を掲げた社会党が左右合同した時代の衆院議席は160近い議席があったが、社民党と党名を変えた現在はわずか2議席。数十人は途中で民主党に潜りこんだが、民主党のバラバラ観は最重要の国防問題で芯が一致していないからだ。いま、「非武装でも平和が保てる」と信ずる国民はほとんど存在しない。しかし「武装恐怖症」のような症状は依然として残っている。
 安倍政権は集団的自衛権の行使について閣議決定した。行使容認自体が自衛力の増強そのものである。中国、韓国を除くアジア諸国、欧州諸国、中南米諸国は口を揃えて日本の新方針を歓迎している。アメリカ国務省も喜んでいるようだ。各国の常識は軍事力の均衡こそが戦争を抑止し、平和を維持するというものだ。オバマ大統領は対中・直接平和路線を狙っていたようだが、中国の歴史を知らなすぎた。日米条約の重みが今になってわかってきたようだ。
 およそ世界中が集団的自衛権の行使容認を喜んでいる一方で、日本国内でだけ、安倍政権の支持率は10%程度落ちた。かと言って野党の支持が増えたわけでもない。非武装幻想のお化けが残っていると言うしかない。
(平成26年8月6日付静岡新聞『論壇』より転載)

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