朝日「吉田証言」取り消す
―32年間の日本の名誉剥奪の罪をどうするのか―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 朝日新聞社が“吉田証言”は誤りだったと認めた。この事件は1983年に吉田清治氏という自称元軍属が「私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行」(三一書房)という本を出版したことに始まる。吉田氏は戦時中、日本軍人らを引率し、済州島で若い未婚女性や若い母親を刈り出して、連行し、レイプしたという“物語り”だ。本の中には済州島で205人捕まえたと具体的な数学まで出ている。
 済州島の地元紙は89年8月14日付で村の古老に当たって「そんな事実はない」旨を報道している。歴史家の秦郁彦氏も嘘の話であると暴いている。
 しかし朝日新聞は80年代から90年代にかけて16回、吉田氏を“良心的な元軍属”として報道した。その結果、記事の内容があたかも真実であるかのように語られ始めた。
 加えて朝日新聞は91年8月11日付で、慰安婦にされたと称する女性を取材し「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀 重い口開く」との大見出しをつけた記事を報道した。しかし記事中に出てくる金学順という女性は、記事の中で貧しさのために「母親に40円でキーセン(妓生)として売られた」と明言していた。この記事をかいた植村隆という記者は当時53歳。「女子挺身隊」は女学生の工場での勤労奉仕。「従軍慰安婦」という呼称もなかったし、慰安婦を軍が直接管理していた証拠もない。「強制連行」は徴用を拒否した男性を連行することだった。こうした“軍語”を目茶苦茶に羅列しているところをみると、戦時体制に無知すぎた。
 ところがこのでたらめ話が韓国にはね返って、92年に宮沢首相が訪韓し、盧泰愚大統領に8回謝ることになる。さらに翌93年、河野官房長官の名前で「河野談話」が出された。
 河野談話についてはすでに政府で“検証”されているが、「事実はどうあれ、頭をさげておけばこれですべて水に流れる」といった認識だったようだ。ところが韓国側は「河野談話」という証拠を得たばかりに、賠償金を出せということになった。
 一方でこの“公文書”は国連人権委員会の特別報告官クマラスワミ女史がとり上げて、人権委員会で「軍隊の使用のために性的奉仕を強制された女性の事例を軍隊性奴隷制(military sexual slavery)であることを明確にしたい」と書かれた。その根拠となったのは吉田清治証言やそれを持ち上げた朝日新聞の“保証”のせいだ。
 オバマ大統領や他の主要国の首脳は今でこそ性奴隷の話はしないが、「事実であった」と思い込んでいることは間違いない。日米韓の首脳会談を開催するに当たって、オバマ氏は「古い話で現実問題を崩すな」と言ったそうだ。日本外務省はこれまで「河野談話で決着済み」と弁明してきたがそもそも「ファクトが無いのだ」ということを説明すべきだった。吉田氏のヨタ話について朝日は32年振りに「記事を取り消す」と言ったが、その間に失われた日本の名誉をどう取り返すのか。

(平成26年8月13日付静岡新聞『論壇』より転載)

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