今後の日米、日中、米中関係の変化
―親日国との外交関係を緊密に―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍晋三首相は自らの外交を「地球儀を俯瞰する外交」と名付けている。日本の地政学的な位置を俯瞰して、重きをなす国、仲良くしておくべき国とそれなりの付き合いをするべき国とに分類して、外交を考えようとの主旨だ。帝国議会の頃から、日本は敵を名指ししない習慣があったそうで、仮想敵国はロシアなのに議会では「北の某大国であります」と言っていたそうだ。
 冷戦の時代、スイスに駐留していた頃、国防省に取材に行った時のこと。「スイスの仮想敵国はどこですか」と聞いてみたところ、「もちろんイースト(東)ですよ」と即答したのには驚いた。案内の将校は「両側のどの国も、スイスを攻略しても何の得もない。第2次大戦ではドイツが南下する目的でスイスを通過しようとしたが、スイスは峻拒した」という。
 「地球儀を俯瞰する外交」を読み解けば、仮想敵国は中国。これに対して日本は日米安保条約で対応する。これが米ソ冷戦終焉以後、不変の日本防衛政策だった。ところが、米ソ冷戦時代と違って、米国に全面的に頼れなくなった。オバマ大統領は日米VS中国の図式だと日本が中国を刺激した場合、米国が日中戦争に巻き込まれかねない。とすれば米中が直接、友好関係になればいいと考えたようだ。一方で中国も日本を吞み込むには太平洋を分割し、米中で新しい「大国関係」を築いてしまえばいいという思惑だ。
 オバマ氏は日中の1500年以上に亘る関係が全く頭になく、日本の中国人への懸念など念頭にない。オバマ氏の歴史と戦略音痴には安倍首相も驚愕したようだ。米国だけに頼る政策は危ういと安倍氏は考えている。このためには、@集団的自衛権の行使を認める A豪州との友好を深め、準軍事同盟の域に高める Bさらにはインドとも豪州並の関係に高める C中国の浸蝕を恐れるASEAN諸国と深い関係を築く D欧米各国とは真の友好を築き E中国の無法に対しては国際法の遵守を迫る F国連の非常任理事国の位置を占め Gひいては国連改革に導く――などが必要だろう。
 地球儀を俯瞰する外交を進める哲学を「積極的平和外交」と呼んでいるが、日本外交が戦後、初めて転換したともいえる。
 戦後外交の基本は「日米」に尽きた。首相になったら、まず米国との関係を確認する。「参勤交代はいやだ」と言って鈴木善幸首相は先に東南アジアを歴訪したが、案の定、国防の本質が解っていなかった。訪米して「日米安保条約は軍事同盟でない」と口走って、伊東外相が辞任した。
 その頼りの米国に一抹の不安が生じた。オバマ氏が軍事音痴のせいで国務長官の成り手がいない事態まで起きた。安倍首相はその対米不信を補う方策として、周辺国との友好関係を進めた。これらの友好国にこれから日本は原発、新幹線、飛行機、自動車などを売り込もうという。日本は新型の製造業国として新たな飛躍を遂げる狙いだ。アベノミクス構想の背景は以上のようなものだろう。



(平成26年12月3日付静岡新聞『論壇』より転載)

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