安倍長期政権の大改革
―財務省本丸に切り込み勝利―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 中曽根内閣は5年間で国鉄の分割・民営化をやり遂げた。当時内閣が抱える課題は3Kと言われ国鉄・健保・コメだった。この中から@任期中に片づけられるA現在出血中であるとして急遽取り上げることになったのが国鉄だった。当時の国鉄は毎年2兆円の赤字を出していたが、現在、赤字は解消し、民営化された7社で合計7000億円の税金を納めている。国は何も手を出さずに、2兆7000億円に相当する収入を手にしているわけだ。
 次に大きな改革を断行したのは6年間続いた小泉純一郎内閣だ。郵政改革が成功したのか、うまくいっているのか目下のところわからないが、金融自由化の流れの中で、郵政事業者が郵貯と簡保を兼業していられるわけがない。日本が兼業に固執すれば、乗り込んでくる国際企業はオレにも兼業させろと言うに決まっている。歴史的に郵政事業は民営化し、郵貯と簡保を切り離さざるを得ない運命にあったのである。
 国鉄や郵政を取材している時に、何度も聞いたお役人のセリフだが、「政治家は政府の本体に触れず事業を切り取っただけ」というものである。所詮、事業は行政府の付属体である。だから運輸省は国鉄を切り出せた。郵政省も事業を民営化しただけだ。役人は「本省の機能に手をつけた首相は生きて返れない」と言うのだ。安倍首相がやったことは本省の機能、それも財務省の本丸に切り込んでねじ伏せたことに他ならないのではないか。
 こういう大業ができるには内閣が長く続くという見通しが必要だ。税制というのは財務省の基本で歴代、財務省は他人の指図を受けたことはない。今回、安倍首相は既に法律で決まっている16年10月から消費税を10%に引き上げることを拒否した。税制改正法案を出してこれで延期することも出来るが、その手を使っていたらどうだったろうか。
 野田毅税制調査会長は「絶対反対」と豪語していたし、伊吹衆院議長に至っては「税制の改正を衆院解散に訴えることは間違い」と明言していた。財務省の根回しは三党合意演出ができるほどのものであり、安倍氏が“法案で修正する”路線をとっていればとてつもない道草を食っていただろう。
 そもそも一強多弱といわれる政党群の中でガツンをやらなければならない政党はどこか。ケンカ相手は一強の中にこそ潜んでいたのである。安倍氏は官僚の中の官僚・財務官僚にケンカを仕掛け、これに勝ったのである。勝ちっぷりが見事だったから当分、財務省が反撃してくることはないだろう。
 財務省は消費税の増税一本槍で攻めた。安倍氏の方は税率は上げずに税収を上げる。片や法人税を下げる一点張りだ。行政府の出過ぎをこらしめるために解散に打って出たのは安倍氏が初めてではないか。安倍氏は各省審議官以上600人の人事を評価する「内閣人事局」を設置している。長期政権の間に人事局を有効に支配するようにしてほしい。


(平成26年12月31日付静岡新聞『論壇』より転載)

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