戦後の日本外交を清算
―しなやかに進む「地球儀を俯瞰する安倍外交」―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍晋三首相が提唱する「地球儀を俯瞰する外交」は戦後の支離滅裂な外交方針を清算してくれるのではないか。新外交方針は今後の日本の安全保障政策にも直結し、あらゆる事態に日本を対応させることができる。
 日本の外交方針が古来、誤ってばかりいたわけではない。力に頼みすぎて、思惑が外れることも多かった。そこに軍部が介入したのも失敗のもとだったろう。
 そこで戦後は「どの国とも仲良く」が、いつの間にか大方針になった。日中関係は現在、殊の外悪いが、古来、中華思想の抜けない国と、2000年来、独立志向の日本とで仲良くできるわけがない。せいぜい嫌いな隣人との付き合い方に留めるべきだろう。
 その冷たい関係が中国の反日感情を呼び起こしたのなら仕方がない。損害のない程度に付き合いを縮めるしかない。しかし日中国交回復後に日本がとった対中外交方式は、さながら土下座のようなものだった。中国はこちらが頭を下げれば満足という思考に陥った。
 安倍首相は日中関係をこの2000年来の歴史の中で考えているだろう。地球儀で見れば、日本に味方する国は130、中国に味方する国は約30。日本への“味方度”を厚くする一方、軍事的に頼りになる日米関係を厚くし、豪州とも軍事技術的結びつきを強める。遠く欧州をも含めて、親日度を高める。
 小沢一郎氏が新進党を背負って、政権を目前にした頃「国連待機部隊」構想が打ち出された。日本国内には国連信仰というべきものが存在し、世界の揉め事は国連軍が解決してくれるとの考えだ。国連待機部隊は整備も軍備も日本軍だが、所属は国連軍に属すから、軍事責任はない。こういう奇妙な構想を小沢氏がなぜ考え出したか。“国連軍”であれば、国連の傭兵だから日本の意志で軍隊を動かすわけではない。非武装・中立の社会党でも待機部隊の創設は許容する。全くの国内的発想から生まれた安全保障論である。
 この度し難い発想の欠点は、国連軍が動けば、世界の難題は全て片付くと思い込んでいるところだ。安保理常任理事国5か国の意志が合致しても、世界では解決しない問題がゴロゴロある。日本外交は1902年に日英同盟を結んでロシアに勝った。しかし22年にアメリカの介入で日英同盟を解消し、仏を入れた4か国条約に改組してから日本外交は失敗続きだ。船頭多くして舟進まずとなった。これに比べても、今の国連の解決力は4か国条約以下だ。
 天下を目前にした小沢一郎氏が、この面妖な防衛論を引っ下げて登場した理由は何か。
 戦後の日本は日本の外側の動きに全く無関心だった。その証拠の一つが「諸国民の公正と信義」を信じて疑わなかったこと。一方で日本からも「外界に向けた人的貢献も必要」と考えた。要するに小沢氏は「公正と信義」「国連信仰」「国際貢献」といった単語を羅列して、怖ろしく抽象的な“政治理論”を構築したのだ。


(平成27年1月7日付静岡新聞『論壇』より転載)

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