安倍首相「農協系統改革を断行」
―岩盤規制を潰すことが日本農業を救う―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍首相は農政の宿痾(しゅくあ)と言われてきた農協系統改革を断行しようとしている。本来、農協は小規模農家の販売や購買を手助けし、農業の新手法を教える制度としてスタートした。ところが今や農協系統は購・販売や農業指導では全く利益が出ず、金融機関の様相を呈するようになった。正組合員が500万人足らずで、加えて金融を利用する準組合員が500万人もいる。
 いま、農協系統の問題点はJA全中(全国農業協同組合中央会)である。この組織は農協系統組織の中枢に位置し、傘下の組合(約700)から上納金を年に80億円集めて、200人ばかりが政治運動にかかりっきりになっている。米価値上げ運動の頃には存在意識もあったが、農地の拡大や農業の近代化に焦点が移ると、この組織は近代化に反対するだけの団体に堕した。
 安倍首相は「これこそ岩盤規制だ」と真っ向勝負の勢いだが、全中の勢力も侮り難い。全中に1000万人を動員できる力はないが、4月の統一地方選で、農村票が反自民に回ると9月の安倍再選をも揺るがしかねない。全中が最近、必死にやっていることはTPP反対だが、組合員の40%程度は反対しているが、賛成しているのも30%弱存在する。この分布は新しい農業に打って出ようという農家が「潜在的に多い」と見られている。こういう動きをひたすら押え、農家や政治家を「反対運動」にまとめ上げようというのが全中だ。農協の都道府県組織も地域農協も、営農部門では儲けがなく、金融部門で儲けている。安倍首相の指摘は営農に役立たない全中は農業政策を語る資格がない。政治活動をしているだけではないか、というものだ。
 農業にも医療にも恐ろしい岩盤規制が完成してしまったが、こういう岩盤を崩すのは余程強い長期政権が取り組まなければ潰すことはできない。安倍政権で遣り損なえば永久に存続し、国会とは別の農業立法府ができるだろう。
 全中は700の農協から上納金を取って、「指揮している」と称しているが、全中が存在しなくなったらどうなるか。全国に忽然と700の“商社”が誕生することになる。欧米の農協は実は商社であって、農産物を高く売ってくれる。肥料や機械を安く調達してくれる会社だ。新しい“商社”の中には才覚がなくて半分くらいは潰れるかも知れないが、全体として農家を利することだけは間違いない。
 農協は独占禁止法の適用除外で、横並びの価格を強奪しているが、JA越前たけふは購買・販販事業を文化化し、系統を通じないで肥料を購入したところ3割も安くなったという。独禁法の適用を除外すれば、農産物のカルテルがなくなるわけだから、価格が下がるのは当然なのである。
 安倍首相は、岩盤規制を崩すことこそ日本の為になると説明すべきだ。公明党は農村票減らすことを懸念しているようだが、何が全日本国民の為かを一義的に考えよ。



(平成27年2月4日付静岡新聞『論壇』より転載)

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