戦後日本の最重要課題に取り組む安倍首相
―憲法改正と農業改革―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍晋三首相は今年9月の自民党総裁選で再選されると、合計で6年間、内閣を指揮することができる。政権が長いのが良い内閣とは限らないが、長期政権でなければ改革できない問題がある。戦後の日本で最重要視されながら改革の展望が見えない問題が2つあった。1つは憲法改正、2つが農業の改革だ。
 憲法改正の必要性は誰でも認めてきた。特に米ソ冷戦期を抜けた後の国際情勢は「諸国民の公正と信義に信頼」(憲法前文)して国が安泰とは言えない情勢になった。2月1日の朝日新聞の調査では憲法改正賛成派の衆院議員は84%を占めるのに、一般有権者のうち改正賛成派は33%に過ぎないという。
 衆参両院で改正事項を発議して、国民投票にかけても、国民投票で半数を割れば、内閣は総辞職せざるを得ない。
 安倍晋三氏が再度、総裁に担ぎ出されたのは、安倍氏の憲法9条改正論が党内の支持を得たからだろう。安倍氏も就任当初は9条改正を緊急課題と考えていたようだが、目下は世論の動静をどう変えようかと頭をひねっているようだ。安倍氏の任期が一期でお終いだとすれば、憲法改正のチャンスはまた半世紀ほど遅れるだろう。その間、日本は9条を抱えて半端な国家を続けるつもりなのか。
 後藤健二さんら2人がテロで殺された時、日本国内では「アラブ世界に2億ドル出したせいでやられた」と政府を糾弾する意見が強く出た。アラブ諸国には毎年、欧州諸国を上廻る支援を続けてきた。テロリストが怒ったのは、「2億ドルが仇になったからだ」という論理は、「日本は何もしない方が、世界で安全に生きられる」との思想からだろう。この中立神話を崩さない限り、国際政治を乗り切る力は生まれまい。
 農業改革も古くて長い問題だ。農協系統が設立されてから70年経つが、国鉄も郵政も100年以上続いた揚句に、潰された。農協も時勢が変ったのに、今まで通りに生きたいと言っても無理だ。
 最近、農業の勉強をしようと思って、農政の第一人者である学者の本を読み終わって驚いた。巻末に参考文献が挙げてあって、そこに小生の書いた『コメ自由化革命』(新潮社)とあったのだ。書いた本人が完全に忘れてしまっているほど昔の話だ。1989年の出版だから25年も前だが、農協の株式会社化や田んぼの規模拡大について書いてある。これを一冊書いて農業の勉強を放り出してしまったのは、「農協系統は票を持っているから、政治は動かないだろう」と見切りをつけたからに違いない。
 しかし安倍氏は「農協と話をつけよう」という度胸と、それをやり切る時間を持っている。



(平成27年2月11日付静岡新聞『論壇』より転載)

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