「憲法改正」世論の高まり
―「諸国民の公正と信義に信頼」できない現実を冷徹に見極めよ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 第2次安倍内閣が誕生以来、政権の右傾化が内外から叫ばれているが、その右傾化批判の理由の一つは憲法改正を目指す姿勢だろう。
 安倍晋三首相の支持率が2年も経って、なお5割を保っているのは国民の広範な支持があることを示している。その支持のコア(核)に位置するのは憲法改正を目指す層だろう。改正の照準を、武力禁止を定めたといわれる「第9条」に合わせている。この改正純粋派の主張は「9条」を廃止して「国防軍(軍隊)」を設けるというものである。2番目に9条1項を残して第2項を廃せばよいとする層もある。1項は「戦争放棄」を謳うが、2項の「交戦権の否認」を廃すことによって、自衛戦争を可能にするというものだ。これだと集団的自衛権を含める現状と変わらないから国民の賛同は受け易い。一方で、「第9条があるから他国は戦争を仕掛けられない」と解釈する非武装中立論もある。
 安倍首相は9条に絡んだ改憲について、国民が賛同し易いものでよいと思っているようだ。9条廃止に拘って憲法改正自体がすっ飛ぶのを最悪だと思っているからだ。9条2項を廃すのは現状を是認しただけのように見える。従ってこの案でいった場合、反対派から「解釈改憲にすぎない」と未来永劫、反対される可能性も残るだろう。
 現憲法の前文に、誰もが知っている「諸国民の公正と信義に信頼して」わが国の平和を守るとする文言がある。第9条1項では武力はいらないとあるから、条文自体では筋が通っているが、現実世界が狂ってきたら、条文の方を変えざるを得ないのは当然ではないか。中国や北朝鮮が公正と信義に反し始めたのは日本が事を構えたからではない。
 世論調査をすると憲法改正に6割以上が賛成している反面、9条に限れば賛成は3割5分程度にとどまる。70年間、漫然と非武装・中立=第9条の“歌”を聞き続けた結果なのか。
 この曖昧な層は敵が目前に来た時、目を瞑ってしまうのか、立ち上がって反撃するのか、覚悟を決めてもらいたい。どっちもダメという答えはないのである。相手の善意にすがりつくことは最早できない時代なのだと自覚する必要がある。
 30年程前、スイスで国防軍の視察に行った時、「仮想敵はどの国ですか」と聞いてみた。スイスの軍人が「東です」と明言したのには驚いた。日本の国会では、古来、この質問が出れば「北の大国であります」とか「某国」という答えが返ってきたはずだ。国民が直接、敵国を意識しないよう仮想敵国を伏せてきた。
 中立国はどこの国とも仲良く、手際良く付き合ってうまくやるのかと思っていたら、敵と味方を峻別し、国民に敵はどこか明示する。翻って日本の外交を見ると、戦後、社会党が誕生したせいか、道を間違えて国民に敵を示さず、三木武夫首相などは全方位外交などと言っていた。冷徹に国際情勢を見極め、安全保障の観点から憲法を見直すことが必要だ。



(平成27年4月22日付静岡新聞『論壇』より転載)

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