安倍首相の米上下両院合同会議での鮮やかな演説
―共通の理念を共有する揺るぎない日米関係―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍晋三首相の4月29日の米上下両院合同会議での演説は、鮮やかな形で日米関係を変革し、世界史の一ページをめくるものだった。
 オバマ政権は就任以来、米国の世界戦略をリバランス(再均衡)する方策に迷ってきた。米国はそれまで3つの戦争を維持できるとしてきたが、オバマ氏の代になって、米国は戦力を減少し始めた。戦力の一つをヨーロッパから引き揚げ、アラブからも半分引き揚げる思惑である。中心はアジアでのリバランスである。オバマ氏は日中に仲良く手を取らせて日米VS中国のバランスを取ることを考え、うまくいかないなら米中の直接の「新型大国関係」を作り出そうと考えていたようだ。しかし日中がうまくいく可能性は殆どない。中国の中華思想は古来、抜き難いものがあり、日中間は7世紀より正規の国交を絶って平和を保ってきた。日本が北満州経営に乗り出してから韓国を巻き込んで“大東亜”戦争を起こし、続いて太平洋戦争へ突っ込んで行く。
 日米両国は人類史上類がない凄惨な戦争を行なったにも拘らず、日米同盟条約を結んでアジアの一角の平和を維持してきた。しかし中国の急激な台頭にあって、日本が米軍の補完的な役割では日米VS中国のバランスが危なくなってきた。
 オバマ氏の認識も「新型大国関係は不可能だ」と見切ったように見える。互いに日米で進むしかないという状況の中で、安倍首相が訪米し、懸案の第2次大戦における「痛切な反省」(deep remorse)を表明した。
 日本を発つに当たって安倍内閣は国家安全保障会議(NSC)の設置、防衛計画の大綱の改定、集団的自衛権の限定的容認を整備し、新たな日米ガイドラインの改定に備えた。
 日本の防衛政策は歴代首相の思い付きで、食い散らかしたような立法措置で、一貫性がなかった。安倍内閣が整然と防衛体系を整備できたのは長期政権の様相が確定的だからだ。現時点において、アジアで最も頼りになる国が日本であることを疑う国はあるまい。
 国会は8月末まで会期を延長して“安保関連法案”を審議することになっている。この審議を横目に見て、中韓両国が日本と仲良くなるとか、丸く収まることを期待してはならない。日本と中華圏とは全く違う価値観を抱いている。慰安婦問題は米国の裁判で“商行為”であるとの判決が既に出ている。それ以前に日韓の賠償・請求権条約で片がついたことを韓国政府も認めていた。運動の余地が残っているのは立法府だが、米国世論では「謝罪は不要」が61%。
 こういう世論の中にあって「日本は見舞金を払わない」と告げ口して歩く外交は些細なことに見えるだろう。米国にとって韓国は軍事上重要だが、日本としては韓国はもはや中華圏に舞い戻ったと考えた方がよい。
 日米の信頼関係が崩れないのは敵も味方も互いに許し合う精神をもっていたからである。
 日本と米国は自由と民主主義を守るという共通の理念を抱いている。これほど強い結びつきはない。


(平成27年5月6日付静岡新聞『論壇』より転載)

 Ø 掲載年別
2015年の『論壇』

2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』

ホームへ戻る