「集団的自衛権行使容認」の国会審議
―時局の危機に対応する法改正は政治家の責任―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 日本をめぐる国際情勢の変わりように、早く対応しろと気が急く思いだ。新安保法制の国会審議が4月27日ようやく始まった。衆院の平和安全法制特別委員会で維新の党の松野頼久代表がトップ・バッターで質問に立った。維新の橋下徹氏(大阪市長)は憲法改正派で安保法制改革者で知られ、松野氏は橋下氏の“親友”のはず。当然、安倍晋三氏の法改正には賛成かと思い込んでいたが、質問の締めくくりは「何か危機が迫っているのか。なぜ急ぐのか」という驚くべきものだった。
 松野氏にはここ4、5年の中国の動きを危機とは感じなかったのか。鳩山政権の頃から中国による領海、領空侵犯が増え続け、尖閣諸島を漁船で取り巻いたり、漁船が巡視船に体当たりするなど、日本の出方が探られていた。日本の出方が敏感だと思ったのか、攻める矛先を南シナ海に転じ、ベトナム、フィリピンなどが所属を争うスプラトリー諸島の奪取に向った。中国はすでに人工島を造成しており、その面積は東京ドームの70倍ともいわれる。砲台が二門設置されたともいう。早々に軍事基地化するだろう。
 この中国の泥棒のような行為は思い付きで行われたわけではない。10年も前から中国の軍司令官が米国の軍のトップに「太平洋を半分ずつ管理しようじゃないか」と持ちかけていた。もちろん米側が峻拒したので、冗談だったのかと思わせた。ところがオバマ・習首脳会談で習氏は「太平洋は2つの大国を十分、収容できる」と述べた。ごく最近も同様の発言が中国首脳部から出ている。
 太平洋半分論からいうと、尖閣やスプラトリーはもちろん、フィリピンも中国の支配範囲に入る。かつてフィリピンは米軍を追い出した直後に環礁を奪取された。フィリピンはその後の中国の動きを見て米軍の駐留を認め、いま日比が防衛装備の移転協定を結ぼうとしている。米軍を追い出したあとフィリピン憲法は外国軍の基地を置かないと書き込んだため、十分な対応ができなくて困っているのだ。
 中国は周辺国を経済的な手段で押さえつけている。フィリピンが公然と文句を言うとバナナの輸入を止めるとか、カンボジアなどは中国無しに成り立たない経済構造になっている。
 今回の国会は「集団的自衛権を行使する」ことを前提に新日米ガイドラインに息を吹き込むのが目的。自衛権を日米では「集団的」と「個別的」に分け、個別的しか使えない、との解釈だった。世界中の国の解釈は「集団的自衛権を行使するとは共同防衛もある国が攻撃を支援する場合もある」というものだ。今国会は世界の常識を“学習”する教室だと認識すべきだ。
 米国とすでに同盟条約を結んでいる国が第3国から侵略されたことはほとんどない。特殊な例外は南ベトナムぐらいだ。「なぜ法改正を急ぐのか」には国際情勢に対応するためというほかない。防衛法制が適当でなかったり時局に間に合わなかったら、政治家の責任だ。


(平成27年6月3日付静岡新聞『論壇』より転載)

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