安全保障関連法案
―維新の党、対案示す―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 維新の党が安全保障関連法案の対案をまとめ、自民、公明、民主党にそれを示した。
 このような“大法案”に野党が対案を出すことは従来の国会常識からすると画期的なことである。野党再編成の動きにも重大な影響を及ぼし、“出来損ない”の政治を正規の軌道に乗せることになるかも知れない。
 政府案と維新案の大きな違いはこうだ。
 政府案は集団的自衛権の行使は日本の「存立危機事態」で行われるという。これにはホルムズ海峡からのタンカー護衛も加えたいと安倍首相は言う。維新案は物資の運送は「存立危機事態」ではない。外敵から直接攻撃された場合の「武力攻撃危機事態」だけに集団的自衛権は認められる――ということだ。
 維新案は集団的自衛権行使の範囲を極めて狭くし、政府案は広範囲に捉えている。これは安倍首相が南シナ海に強盗的に進出してきた中国が念頭にあることは間違いない。米軍の統合参謀本部は7月1日「米国の安全保障を脅かす国家として中国などを名指しで挙げた」。
 一方で中国は半ば公然と「2025年までに米国のGDPに追いつき、海、空能力も米中互角になる」と言っている。中国共産党の思惑はその軍事力を背景に世界制覇に乗り出すということなのだろう。
 米国はオバマ政権になって軍事力の削減を続け、軍事予算は就任時より4%減った。中国は表向きの数字だけでも17%増えたと言われている。
 中国の皮算用は7.5%の経済成長がずっと続くのが前提だが、目下、怪しくなっている。日本は中国が軍事膨張を続ける分、米国に増やして貰って対抗するというわけにはいかない。かつての米ソの冷戦は経済力の差でソ連邦が潰れた。今回の「米中新冷戦」も経済力の差で勝負がつくのではないか。アジアで米国の戦力や戦略の衰えをカバーするのは日本しかない。しかし軍事力は憲法9条で「国の交戦権はこれを認めない」とする以上、米軍の支援程度に止まらざるを得ない。安倍首相が防衛支援の範囲をできるだけ広げておこうとしている。「地球儀を俯瞰する」という安倍外交はアジアの国を富ませ、対中国に向けて総力と結集することを展望している。安倍首相が地球の裏側まで訪れたのは、日本に「アジア支配」の意図はなく、「自由、民主、人権」を掲げた「希望の同盟」を狙っていることを理解して貰うためだ。
 これまで野党といえば「軍事的香り」のする法案には殆ど出席拒否、棄権を繰返してきた。これは安保条約反対以来の体質で、この体質がある限り、政権はとれない。一回だけ民主党が政権をとったのは、自民党が悪すぎたからだ。維新が安保関連法案への対案を出すこと自体、国会の体質を根底から変えることに繋がるだろう。どこの先進国でも防衛問題で対立し、共通の議題でも審議ボイコットなどで自党を有利にしたい、というような姑息なことはしない。


(平成27年7月8日付静岡新聞『論壇』より転載)

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