1内閣3課題実行内閣の安倍政権
―長期政権でまともな国家創りを―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

  歴代内閣は一内閣一課題といって、岸信介氏の安保条約、竹下登氏の消費税、中曽根康弘氏の国鉄(現JR)の分割民営化などが挙げられる。安倍内閣は防衛、教育を九分通り仕上げた上に、戦後最大の規制といわれた農業、農協制度の岩盤に大穴を開けた。日本農業が一つの産業として躍進する可能性に道を開いた。
 戦後、大地主制度を破壊して小作に分譲し、自作農主義に切りかえたのはまさに善政だった。各農家が平均2ヘクタールの田んぼを耕して生計が立った。しかし1959(昭和34)年の池田内閣の所得倍増計画で、小作農の規模では経済成長に追いつけない事態となった。そこで米価の買い上げ価格を引き上げる政策がとられた。ところが1998年に田植機が出回ると生産性は飛躍的に上る一方、買い上げ価格も国際相場の7、8倍にもなった。このため減反政策がとられたが、国家の産業の大きな部分で“統制経済”をとると他の自由主義の分野との差が生じてくる。減反を差配したのは農協系統だが、この組織は最初から矛盾を含んでいた。
 田植機で生産性が何倍も増えたせいで、政府は1970年代に過剰米を破棄して3兆円をドブに捨てた。
 私は89年に『コメ自由化革命』(新潮社)を書いたが、当時、坪30万円の牛舎、1億円のサイロが建てられた。畜舎は自前で造れば坪当たり327万円が相場だった。これは福島県須賀川市のある畜産農家の例だが、自前で320頭分、約500坪の畜舎に事務所まで入れて1000万円で上げている。国の75%補助の農協仕様では、これが2億円になってしまう。
 こういういびつな組織を50年も続けられたのは選挙制度が中選挙区制のうえ、定員の不均衡によって、農村地域に有利に働いていたからだ。現在1票の格差について参院制度については最高裁から注文がつけられている。
 衆院の中選挙区は全地域の農民票を得たいと思うから、農協の言いなりになる。この結果、不合理極まりない農協系統と呼ばれる組織が続いてきた。小選挙に変ってから農協票だけでは当選できないので、他の業種とのバランス感覚が働いてきた。
 安倍晋三氏は第1次内閣を結成したその時に“減反廃止”を決定した。自由市場にすれば米の価格が下がる。下がれば耕地面積の拡大を図るか、品種の改良で対抗するようになる。山形県は米国産さくらんぼの輸入でしゃかりきに反対していたが、日、米共に品質が改良され共存共栄している。
 安倍首相は第2次内閣発足と共にTPPへの加盟を決意していた。そのために最大の反抗勢力となる全中の廃止を求めた。全中の新会長となった奥野長衛氏は約700ある農協が独立して多様な活動をすべきだと言っている。
 国防体制、いびつな産業体制を一新して、歪んだ国家がまともな形になりそうだ。一内閣で3課題を実行する不可欠な要素は政権を長期に保つことだろう。


(平成27年7月15日付静岡新聞『論壇』より転載)

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