自民党総裁選で安倍氏再選
―政治主導・外交力・土下座外交の終焉・日米安保体制強化―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍晋三氏の自民党総裁再選がほぼ決まったようである。再選によって安倍内閣は6年続く長期政権となる。安倍首相が再選を勝ち取ったのは、安倍政権が考え得る最も良い政権と自民党議員が考えているからだ。
 安倍政権で当分行こうと考えたのは @政治主導の政治を行っていること A外交面で主要国を含めて顔を売ったこと B中・韓両国への土下座外交を止めたこと C米国との安保条約を強化したこと――などが挙げられる。以上の中で特に国民的支持を得たのは中・韓両国に対する姿勢だろう。
 94年の小選挙区制度導入によって自民党は近代政党として脱皮し始めた。以前は中選挙区制の下で同じ党から複数の候補者が出るから必然的に派閥ができる。佐賀県などは5人の定員で自民党の全員が当選したことがある。5つの派閥があったことを物語る。この派閥は子分の公認を確保し選挙資金まで面倒をみる。当選した“子分”は親分の言いなりにならざるを得ない。
 この中選挙区制度がつくづく悪い制度だと思ったのは田中角栄氏と福田赳夫氏が争った“角福戦争”である。中間派閥が角栄氏に買われたという噂もあったが、最後の決め手は中曽根(康弘)派と三木(武夫)派が支持に回ったことだ。その時の条件は「中国との国交回復」だった。田中氏は実は乗り気ではなかったが、総裁になりたいばかりに同意した。この同意が良かったか悪かったかは別問題。派閥によって国の大方針が“取引”されたのは大問題だ。中曽根、三木両派の中に国交回復は時期尚早という意見も多かったのに、親分の“取引”で個人の意志は無視されることはざらだった。
 小選挙区制度に切り換わり、政党助成金も支給されることになった。自民党には相変わらず派閥が残っているが、政治的思想で結びついている様相である。全議員のうち100名程度は無派閥だ。
 これまで官僚にとって“官僚政治”がやり易かったのは親分さえ口説き落とせば、国会を意のままに動かすことができたからだ。今、財務省は財政再建のために増税が不可欠だと言う。安倍氏は法人税減税によって企業収益を増やし、法人税収を増やそうとの考えだ。
 財務省が自民党内大物を説得し、安倍路線に党内から反対が出た。そこで安倍氏が打った手が解散であって、財務省の子分は公認しない手に出た。官僚が「国より省」のために働く原理を直すために内閣人事局を創り、そこで各省の審議官以上の600人の人事を司ることになった。審議官が国より省寄りの姿勢をみせると局長、次官にもなれない仕組みを創ったのは大きい。
 岸田文雄外相は自民党内随一のハト派の宏池会を率いる。かつての宏池会のボス達は「中・韓両国との関係をよくしろ」と注文している。しかし国内世論を見て、岸田氏は安倍路線を引き継がざるを得ないだろう。



(平成27年8月26日付静岡新聞『論壇』より転載)

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