「安倍自民党総裁続投」
―切れ目のない外交・安全保障政策を継続―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 野田聖子氏が自民党総裁にどうしても立候補したいと模索した。「義を見てせざるは勇なきなり」と推薦人を必死に集めていた。政党のあり方としては、確かに党首は議員選挙で選ぶべきものだろう。しかしほぼ全議員が安倍政権を継続しようというのは、安倍氏の発想が時代に合っているとほぼ全員が信用しているからに他ならない。これほど時流に合った政治が行われるのは50年の記者生活で初めて見た。
 日本をめぐる国際情勢が代われば、日本の外交も経済システムも変らざるを得ない。米ソ冷戦時代は米国の力の下に座っているだけでよかった。それで十分に安全だったため、日本の平和は憲法9条のおかげで確保されているという政党も存在した。「諸国民の公正と信義に信頼」した上で、更に「交戦権は認めない」と書いてある憲法を読むと、非武装中立を唱える政党が出てくるのもおかしくない。しかし今、日本の周囲には公正と信義どころか核で脅し、領海を侵犯し、日本固有の領土を獲ろうと横車を押す国が出てきた。
 中国は9月3日「抗日戦争勝利70年」と名付けた大軍事パレードを行った。新たな日米対中国という軍事的対立が生まれてきた。オバマ米大統領は鳩山、菅内閣の「米国離れ」を目の当たりにして、米国は直接、中国と仲良くすればいいと思い始めた。これを受けて中国も「新大国間関係」を作ろうと応じた。
 安倍政権が誕生して初の訪米は13年2月に行われたが、オバマ大統領との会談は同じ年の5月、わずか1時間50分。「新大国間関係」を携えて訪中した習近平主席とは8時間にわたって会談した。反面、中国は軍事費を2ケタ単位で増やし、2030年には米国に追いつくと中国政府内で言われている。
 中国の軍事力伸長、領土拡大、周辺民族への基本的人権弾圧などを見てオバマ氏は困惑していた。そこに安倍氏が登場して、中国と謝罪など「条件付き」では会わないと言って、日中間が揉め出した。この結果、安倍氏は米国政府、議会で「右翼」と評価された。しかし今年4月末、米上下両院合同会議で行ったスピーチで、安倍氏を見る米側の見方は一変した。加えて8月14日に安倍談話が発表された。課された問題は@お詫び A植民地支配 B侵略 C慰安婦――の4つのキーワードを使って作文せよというようなものである。
 安倍声明は各国の植民地獲得時代から説き起こしている。日本もその一員として中国を侵略した。日露戦争における日本の勝利はアジアの植民地の民族主義を呼び起こした。この近現代史を語る中で4つの言葉を使ったのである。この安倍談話だけを読んでも近世を知るには十分だ。
 安倍声明の発表後、わずか3時間で米国務省は「評価する」と発表した。中・韓はどう書いてもケチをつけるに決まっているが、米国が安倍政権を信用するに至ったことこそ、安倍氏の狙いだった。
 総裁選なんかを仕かける場合だったのか。野田さん。


(平成27年9月9日付静岡新聞『論壇』より転載)

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