政権政党たり得る政党の条件
―外交・安全保障政策を怠ること勿れ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 自民党総裁選は無投票で安倍晋三氏続投となった。朝日新聞は9日付の紙面で、この無投票について「不満噴出警戒し『野田封じ』派閥も呼応」と非難しているようだ。党内議論を封じ、安倍氏が独裁路線を走っていると言いたい気持ちがにじみ出ている。自民党の大半が選挙なしでいい、と思っているからこそ無投票になり、野田氏が推薦人20人も集められなかったというのは、まともな政党のあり方ではないだろうか。
 自民党は55年体制が始まってから、ほぼ独占的に政権を握ってきた。このため「右派」が政権をとれば次は「左派」に変わることがバランスをとることだと思い込んできた。「振り子の原理」と名付けられたが、一つの党内で政権の譲り渡しが行われるのは正常な政党、政権のあり方とは違う。これは中選挙区制度の遺物のような考え方なのだ。
 小選挙区比例代表並立制は、そもそも政権交代可能な体制をつくるために導入された。「不満があれば反対党に票を入れてください」という形なのである。それに従って前回、民主党は「年金7万円」を揚げて政権をとった。ところが、親中派の首相が外交路線を間違えて支持率は急降下し、7万円年金も出来そうもないというので人気離散した。
 安倍内閣は踏み違えた外交を元に戻して日米関係をさらに強化した。軍事大国化し、外に膨張しようとしている中国を牽制するためだ。この外交政策は、14年末の総選挙でも国民の賛同を得た。さらに安倍氏は公約通りの政策を実行しつつある。この政策が気に入らない、或いはアベノミクスが破綻したとなれば、安倍氏は選挙に訴えればいい。その時には、新たな公約が出来るだろう。ダメなら国民は反対党に政権を移せばいい。
 問題は、政権政党たり得る政党の条件は何かだが、外交安全保障政策を疎かにする政党は、まず永久に政権は執れない。民主党が瓦解するほど崩れたのは、国民に安心感を与えられなかったからだと断言していい。昨年の選挙でも連合の推薦候補は軒並み票を減らした。政権を執ろうという政党は国民に不安を与える“極左”は削除しなければならない。1960年代、特派員としてイタリアに赴任して驚いたのは、イタリア共産党は、軍備は勿論、NATO加盟に賛成だということだった。後に共産党は「左翼民主党」と名を変えて、「オリーブの木」と呼ばれる左派連合の主軸となって政権を執った。連立できたのは、安全保障上のねじれがなかったからだ。
 従って民主党は、まず反米、非武装の仲間をまず切り捨てる。その上で、橋下氏(大阪市長)傘下の維新と組めば政権を執れるかも知れない。維新はいずれ分裂するだろうが、数年経って橋下氏が党首になる頃には大きな第3極になるだろう。
 中選挙区制時代の派閥はカネで結びついた集団で、小選挙区制度になって、カネを配ることは無くなった。無派閥が100人もいるのがその証拠だ。党運営は近代化している。


(平成27年9月16日付静岡新聞『論壇』より転載)

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