TPPは今後の世界貿易協定の“見本”
―中国抜きの健全な貿易協定―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 日米を中心とするTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、今後の世界貿易協定の“見本”となるようなものである。オバマ米大統領は、9月3日に声明を出し「こういう大切なルールを中国のような国に書かせる訳にはいかない」と腹に秘めた思いをぶちまけた。日本も当初、日中韓の東アジア共同体に乗り出したが、これでは中国の思うままと、これにASEAN(10ヵ国)と最後は印、豪、NZを巻き込んだ16ヵ国を構想した。これまでの近隣諸国という発想だと米国を加入させる余地がない。そこへチリ、ブルネイ、シンガポールといった太平洋諸国が自由貿易圏を作るという。そこで日米がしめたとばかり加入申請し、現加盟国を含めて12ヵ国が大同団結した訳だ。この中でもベトナム、マレーシアは国営企業が多く、その扱いは困難なものだった。まして経済交流に不慣れで、国際金融の腕の不確かな中国を加盟させては大変だ。
 オバマ氏は当初、日米対中国の対立を考えていた。しかし日本と中国がトラブルばかり起こすので、米中で直接交渉をした方が手っ取り早いと短絡的に考えた。その足元を見た習近平主席の側から「新しい大国関係」の提案があった。習主席を最初に5時間半もてなして、安倍総理とはわずか1時間ちょっと。当時のオバマ氏の“外交観”を物語るものだ。
 政府の外交態度は「コメ、麦、砂糖、牛肉、豚肉」に手をかけるなというものだが、コメは現行77万トンが別枠で、米国から5万トン、ニュージーランドから3万トンを買うというものである。現行の輸入枠の外というのだからぎりぎり公約内である。しかし日本のコメは外に売ってもよく売れる。別枠で輸入したコメはせんべいに使うという姿勢はおかしくはないか。
 安倍首相は第一次内閣の時に「減反廃止」を打ち出した。にも拘わらず農林団体と官僚の談合でこの効果は無視された。減反が正直に行われていれば、主食は限りなく安くなり「こんなに安いのなら田んぼや畑を貸す」という農民が出るはずだった。この方式は一種のパニックを引き起こすが、EUで行われている超集約政策を見習ったらいい。
 EU各国は、農業救済として拠出金を出す。農民はジャガイモやトマトなど生鮮食料品を国際価格で売る。EU政府は国別の農民の生産性を考慮して国際価格に見合った補助金を出す。
 日本の農産品は関税によって国際価格との差をつめている訳だが、これを成り立たせるためには全消費者が関税分を払うしかない。国際価格で提供して農民が損する分は補助金で埋める。
 この農家への補助金制度は先進国ではありふれている。生産過剰になったら補填を減らすと言えば生産調整が簡単だ。
 現行では減反する田んぼも主食用を作る田んぼと同じ10アール当たり10万5000円貰う。減反予定地は、植えた分が飼料に流れるから、皆が減反の方を選ぶ。すると主食用米が高騰する。これで「減反をやめた」というのはおこがましい。要するに同じ補助金で価格を高く維持しているだけだ。

(平成27年10月14日付静岡新聞『論壇』より転載)

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