TPP=貿易革命
―農産物輸出額の増加はコメ政策の転換がキーワード―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の内容が公開された。これは“貿易革命”とでもいうべきスケールである。いまだにTPPに反対する人がいるが、日本はガット(関税貿易一般協定)に加盟することで、経済成長を遂げてきた。ウルグアイ・ラウンドでコメの門戸開放を強いられて農家の反発を招いたが、コメ政策を現状のままにとどめ得ると考えてはならない。今回は米側に5万トン、NZに3万トンの別枠輸入を認めたが、このような糊塗的手段がいつまで続くだろうか。国民は、国際価格の7倍ものコメを買わされた上に、全く余分な別枠輸入分を買わねばならない。そのカネはドブに捨てたも同然だ。
 政府が敢てこのような策をとったのは、TPP全体をまとめたい一心からだろう。日米を加えて世界のGDPの4割が同一貿易圏になる。貿易量はじわじわと増えて、その中で日本の国富は必ず増えていく。ガットに加入した後の日本の軌跡を見れば明らかだ。
 日本はこれまで周辺国との貿易圏造りを様々試みてきた。いずれも隣国中国を加えた構想で二進も三進もいかなくなっていた。WTOのドーハ・ラウンドが破綻した原因も中国の身勝手な振る舞いや発想に主要国が振り廻され、愛想をつかしたからだ。
 今回、何が何でもTPPをまとめようという気になったのは、「とにかく正常な貿易ルールを作っておこう」という動機だ。中国では盗用、偽物は当たり前。口約も公約も守らない。その大国を脇に置いたのが、TPP協定が成立した所以だ。知的財産権では偽物を作った場合に課せられる罰則が重い。加えて、遡って賠償額を請求することができる。これまで証拠集めが困難だったが、これも一段と緩和された。
 TPP反対論の一つに、あらゆる分野の製品が競争に負けて、日本が貧乏になるという論がある。かつてバナナの自由化の時、青森のりんご農家が“むしろ旗”を揚げて、農水省に押し掛けたものである。「皆がバナナを食べるようになるとリンゴが売れなくなる」というのだ。サクランボの時も大騒ぎだったが、品質の違いで「うまい方を食べたければ日本産」の慣習が定着した。日本ほど食品の改良技術が高い国はない。最初から負け犬根性で脅えていてどうするのか。
 工業製品についても、日本の部品は世界を席捲しているではないか。これまでは技術を海外工場で作っていたが、国内生産に回帰するチャンスでもある。農産物を含めたあらゆる分野で日本は技術もモラルも高いものを持っている。日本がドン詰まりに到着して一貫の終わりということはあり得ない。
 これまで農産物の輸出額は3500億円。安倍首相がハッパをかけて6000億円規模になりそうだという。あの小さなオランダの農産物輸出額は6兆円。日本がその半分、3兆円の目標を掲げてもおかしくない。それを可能にするキーワードはコメ政策の転換だ。


(平成27年10月21日付静岡新聞『論壇』より転載)

 Ø 掲載年別
2015年の『論壇』

2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』

ホームへ戻る