安倍内閣の教育委員会制度の改正
―教科書採択「育鵬社」急増―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 中学生向けの歴史、公民の教科書で今年は“保守的”といわれた育鵬社の採択が急増した。先日、お祝いの会が行われたので参加した。なぜ急増したか、主催者の分析では歴史上の人物を722人に増やしたのが一因だという。教科書出版の8社が取り上げている歴史上の人物を全て取り上げたのだそうだ。
 人物を学ぶことで、その社会的背景がわかる。何より歴史を動かしているのは人間だ。育鵬社は保守系といわれるが、これまでの教科書があまりにも左翼的過ぎたのではないか。同社の教科書は平成13年から出版されていて、初版に天孫降臨の話を書いた。他の7社は「神話につながる」という理由で、どこも使っていなかったが、育鵬社が載せたのをきっかけに、全教科書が取り上げるようになったそうだ。
 歴史学者が虚心に考えれば、取り上げない方がおかしいと思うようになったのだろう。玉川大学に教科書リサーチセンターという研究所があり、研究員の小林弘和氏の報告にはびっくりした。現在小学生向け教科書には42人の歴史上の人物を教えることになっている。ところが、平成23、24両年度の大学1年生に行った調査では「明治天皇」の正答率がなんとゼロだったという。人物について教えることはその時代をも教えねばならない。明治維新こそは日本の現代化の象徴で、これを知らないことは近代の日本の制度、官僚内閣制も知らないことを物語る。私はこの官僚制度のどん詰まりが、大東亜戦争だったと思っているが、現代の学生は日米戦争があったこと自体知らない方が多いという。
 「聖徳太子」などは55%が正答している。正答率で高いのは紫式部(40%)、織田信長(39%)、豊臣秀吉(35%)などで、近現代人は殆ど入っていない。
 これは左翼系の教科書は現代を否定的に見るため、人物も歴史も教えないということだろうか。共産党系の学び舎の教科書で出て来る人物は430人。これほど少ないということは、共産党にとって学ぶべき人物、時代が少なかったということなのか。
 現在に伝わる文化遺産を取り上げている箇所は育鵬社が802に対し学び舎は615。学び舎の教科書を採択しているのに国立大学の付属中学が多い。
 これまで左翼系教科書ばかりが採用されてきたのは保守系の新規参入(平成13年)が遅きに過ぎたことだ。その理由は教科書採択に当たって日教組が教育委員会を握っていたことがあげられる。首長は教育に口を出すのを禁じられ、せいぜい教育委員を指名する程度だ。教育委員はその地域の有名人が多いが、実務の教育行政には全く疎い。日教組にどっぷり浸かった教師出身者が教育長になり、教科書採択に当たっては「下調べ」と称して実質上日教組が推薦したものを決める仕組みになっていた。安倍内閣はこの教育委員会制度を根底から改正して、選挙で選ばれた首長も口出しできるようにした。
 特殊だった教育社会に“俗人”が口を出せるようになったので、育鵬社が浮上したというわけだ。


(平成27年11月4日付静岡新聞『論壇』より転載)

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