政界再編の道遠し
―野田氏・石破氏の政治への信義とは何か―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 政界再編は掛け声ばかりで一行に進む様子がない。小選挙区比例代表並立制は二大政党による政権交代を目指すもので、世界各国で例外なく政権交代が行われている。なぜ日本では二大政党制への動きが鈍いのか。
 まず、70年に亘った中選挙区制度時代の考え方や因習がこびりついていることだ。
 9月の総裁選で安倍晋三氏が無投票で再選された。その際、野田聖子氏は20人の推薦人集めに狂奔したという。立候補を目指した理由を「党として総裁選を省くのは国民に失礼だ」という。主流派との対立軸を示してどちらに国民の支持があるかを示したいようだ。これは従来の派閥的感覚そのもので、今特に代える理由は何か。閣僚を割り振る。自分を総裁にしてくれた人に恩返しをするのだ。野田氏の発言は“新安保法”に反対という風にも聞こえる。「義を見てせざるは勇なきなり」というからには総裁選挙に挑むこと自体が「義」ということか。
 安倍政権は何十年来の懸案だった教育の偏向を正した。TPPを承認して農業構造の転換に踏み出した。中国の軍事的台頭に対して日米安保条約を一段と強化した。
 こういう大仕事ができたのは安倍氏の着眼点が良かったことと、最初から長期政権の展望を持っていたため、官僚や業界団体といった抵抗勢力が押し黙ったからだ。
 オバマ大統領は中国との直接取引、(新型大国間関係)で中国に接近した。米国から見ると日本は年中、中・韓両国とトラブルを起こしている。それなら「米国は直接、中国と親密になろう」というのがオバマ氏の発想だった。しかしオバマ氏は安倍氏の対中・韓外交を理解し、一方で中国とは胸襟を開いて話し合うことができないことを悟った。南シナ海の岩礁を埋め立て「固有の領土」と言い張る様は、まともな国ではない。その中で安倍外交はEU各国の信用も得た上で、集団的自衛権の行使ができる憲法解釈を断行した。
 内外の情勢を見て、これ以上に適切な方法や、現実的な政治があろうか。いや、安倍政治には賛成できないというなら、総裁選挙を求める意味があるだろう。野田氏にその“義”はあるのか。
 この野田氏を推しているのが古賀誠氏で宏池会の名誉会長である。宏池会は吉田茂の流れを汲む池田勇人氏のハト派路線である。どこともケンカをしないで経済発展に専念した結果、党内に中国や韓国の言いなりになるのが一番という風潮を生みだした。
 最近、わけのわからないのが石破茂氏である。幹事長時代、「派閥解消」の掛け声をかけ、党本部に「無派閥連絡会」を設けた。派閥に属さない議員に情報を伝え、かつ教育しようという主旨だった。同連絡会の中心メンバーに浜田靖一元防衛相、小此木八郎氏がいる。石破氏は政界再編を唱えて自民党を飛び出したこともある気鋭の人と思っていたが、突然、20名を揃えて「石破派」を結成した。これはあるべき時流に逆らう、倒錯した考えではないか。政界再編の道遠しだ。


(平成27年11月11日付静岡新聞『論壇』より転載)

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