「中国の真実の狙い」を認識せよ
―親中国家、親中派への『世界覇権100年戦略』必読のススメ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 日中国交回復後の日本は中国に対する贖罪意識もあって、ひたすらご機嫌取りに終始してきた。議員や民間の交流も規模が大きくなり、一回に3000人も連れていく自民党派閥の親分もいた。親分は民間交流を続けて行けば互いに理解が深まり、いずれ中国は民主主義国家になると「国家100年の計」を説いたものである。
 米国のCIA長官に仕えたマイケル・ビルズベリー氏は骨の髄から親中派だったが、最近中国について「世界覇権100年戦略」と題して中国の陰謀を暴く書を書いた。ウールジー元CIA長官はこの書について「ビルズベリーの懺悔の書」と名付けたほどである。ビルズベリーは日本の“親分”と同じ発想で、中国を善意で見続けていけば、いずれ中国も民主主義の国になると暖かく見守ってきた。
 しかし同氏は最近、中国の急速な台頭の裏に、隠された「真実の狙い」を炙り出した。氏は「中国の指導者は西側の人々に中国が平和的に台頭し、他国に犠牲を強いることはないと信じ込ませた」という。アメリカの中国研究者は押しなべて中国びいきだった。「中国は西洋帝国主義の“気の毒な犠牲者”とさえ見てきた」という。「中国は大国となっても地域支配、ましてや世界支配を目論んだりしない」と世界を信じ込ませてきた。
 同氏が暴く中国の計画は「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党100周年に当る2049年までに世界の経済、軍事、政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」というものだ。こういうウワサは外部に漏れてきたが、日本もアメリカもそういう考え方は政権内のはみ出たタカ派が言うことだと過小評価してきた。だが最近中国がやっていることは、政権が一体となって2049年までの「100年マラソン」を急いでいるかの如くだ。米国まで乗っ取ろうというからには、手前の日本を無力化しなければならない。世界の中で無力化するには“歴史認識”で精神的に屈服させなければならないと思い込んでいるようだ。
 最近“急ぐ中国”の有利な武器になっているのはサイバーだ。中国は米国、日本の企業から機密資料を根こそぎ盗み、米国が製造している新しい武器でも、米国で完成したその日に中国で完成できるほどだという。
 9月に習主席が米国を訪問し、オバマ大統領と会談した。その際オバマ氏は習氏を別室によんで「サイバーだけは止めにしてくれ」と呼びかけたそうだが、習氏は「やっていない」の一点張りだった。そこでオバマ氏は南シナ海の岩礁埋立を厳しく攻めると「あそこは中国古来の領土だ」とうそぶいたという。
 会談のあと両首脳は並んで記者会見に臨んだが、終わって二人は目も合わさず別れた。TPPにはこれまで中国が必ず開示を求めていたソフトコード(機密情報に当たる)の開示禁止を盛り込んだ。これで企業の機密を丸ごと盗むことは困難になるそうだ。


(平成27年11月18日付静岡新聞『論壇』より転載)

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