内閣法制局に最高の解釈権はない
―安倍政権の官僚制度改革は続く―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍内閣の支持率は安保法審議の間、5〜10%下落したが、安保法が成立すると元の40〜45%に回復した。国防という国家として必須の手当をしたのに不人気だったのはなぜか。国民は審議不十分のためマスコミの「戦争法案」「徴兵制度になる」という決めつけを真に受けたが、その不安感が収まったということか。その後の新聞紙面を眺めてハッと思い当たったことがある。

 野党の中には「憲法改正してから安保法をやるべきだ」という人が多かった。それは安保法が憲法に違反すると思っているからだろう。9月28日の毎日新聞は「憲法解釈変更 法制局1日で審査 過程公文書残さず」と報じている。これを追いかけるように朝日新聞も11月24日付で「集団的自衛権の憲法解釈変更 法制局 協議文書残さず」という大記事を書いている。
 以上の認識で安保法は“憲法違反”と断じているのだが、この解釈自体が大間違いなのだ。
 内閣法制局という存在は1875(明治8)年、太政官制度の中に「法制局」として設けられた。官僚内閣制度の番人として存在したのである。しかし戦後1948(昭和23)年、法制局は廃止されて、国務大臣たる法務総裁を置くこととされた。新憲法は議員内閣制であり、官僚内閣制の門番に議会の最高意志を決定して貰うわけにはいかない。憲法41条には「国権の最高機関は国会である」と規定されているからだ。ところが1952(昭和27)年、官僚は官僚内閣制を続けるために、法制局を「内閣法制局」に改めた。
 官僚は「官僚内閣制」が最善と思い込んでいる。新憲法は「議院内閣制」という構造になっている。新憲法の建て前では、議会で答弁するのは大臣だが、官僚の意志に逆らって答弁されては困る。そこで国会法に「政府委員制度」を盛り込ませて、国会を従来通りに運営できるようにした。事務次官会議は法的根拠は全くないのに、次官会議の了承を経なければ些細なことでも決まらなかった。目下は各省調整のために残されているだけだ。
 官僚の人事を政治家が勝手にいじらないように「人事院」まで設けられた。安倍政権になって「内閣人事局」に改組されたが、内閣人事局の長は官房副長官を充てることになっている。政治の側が各省の幹部600人の人事を握るようになった。
 国会に提出される法案の殆どは政府提案になってはいるが、内閣法制局に最高の解釈権を持たせるのは筋違いだ。中曽根康弘元首相も最高の解釈権は最高裁が持つべきだとの持論だった。
 民主党政権時代、法制局を排除して官房長官が答弁することにしたことがある。安倍内閣では閣議決定で憲法解釈を変えたが、これは議員たる総理大臣と全閣僚によって了承された。政府委員制度、事務次官制度、内閣人事局の創設と、官僚制度改革はなお進められている最中だ。

(平成27年12月9日付静岡新聞『論壇』より転載)

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