「平成27年の年末に当たって」
―安倍政権の実績を振り返る―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 年末を迎えるに当たって、安倍政権を評価してみる。安倍政権は3年を迎えたが、3年間の実績としては過去の内閣で最も優れたものではないか。それは3点あると思う。
 まず第1に外交手腕の力量が挙げられる。安倍氏が政権に就いた頃、日米関係は冷え切っていた。常時、中・韓と揉め事を起こす安倍政権について米国は“右翼政権”のレッテルを貼り、敬遠ぎみだった。そこに習近平政権から「新型大国関係を作ろう」との提案が出る。当時、オバマ氏は日本を中・韓との事での非が日本にないこと、中国は理想的な関係を結べる国ではないことを悟る。安倍氏が米上下両院議員総会で訴えた「希望の同盟」こそが揺るぎないものであること、8月14日の「安倍談話」はここ100年のアジアの歴史から説いている。列強のアジアにおける植民地支配が何百年も続いている時に、日本が白人ロシアに勝ったことでアジアの独立心を高めたこと。日本の“近代史”を語ることで、終戦記念日の度に騒がれた問題の程を世界に知らしめた。
 中国の南シナ海の岩礁埋立てを目前にして日本は豪州、インドの大国をも味方に引き入れた。日米豪印の形は予てダイヤモンド協定と呼ばれたものだが、更にベトナム、フィリピンを強く惹きつけている。中・韓の日本叩きの中で浮上した新関係である。安倍氏自身は「積極的平和主義」と呼んでいるが、どの国が仮想敵国であるかを明瞭に示した。日米安保を結びながら、「仮想敵国はない」などという寝ぼけたことを言うから、ナメられ続けた。米艦船は中国が領海という海域に入ったし、豪空軍も中国の言う領海内を飛んだ。
 中国は国際経済に参入する一方、軍事力で世界を席捲しようとしている。安倍氏の外交手腕が高い評価を受けている理由は、敵と味方を峻別しているからだろう。
 第2点は何十年も無責任体制を続けてきた教育界を抜本的に刷新したことである。従来の教育委員会はお飾りの集団で、この中で日教組は思い通りの教科書を使わせてきた。内部で起こった不祥事には誰も責任を持たせずやり過ごしてきた。これが新「教育委員長」が責任を持ち、首長とも教育方針や予算について話ができる体制に作り直した。これは大阪府・市で実現した教育基本条例の“国家版”とも言えるもので、安倍、菅両氏が橋下徹・松井一郎(大阪府知事)両氏に一目置いている所以だ。
 第3に農協系統組織の「JA全中」の監査部分を“民営化”したことである。JA全中こそが監査権を使って古い膿瘍組織をそのまま維持するお目付け役を演じてきたことに着目」、「廃止」にまでもって行った力量は感服する。これまで何十年間も農政の様々な規格が各地で生れているのに一向に集まらなかった農地の移動。新規事業も、農政法の縛りが大き過ぎて大変化は起こし得なかった。それが今、全国に新たな事業が生れ始めている。農政は第1次産業として花開く可能性を開いた。日本の果実や野菜の輸出が盛んになってきた。

(平成27年12月23日付静岡新聞『論壇』より転載)

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