アベノミクス第3の矢放つ
―岩盤規制無くし農協を“商社”に―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 アベノミクスの第3の矢として、安倍首相が打ち出したのは @ GDP(国内総生産)600兆円 A 希望出生率1.8 B 介護離職ゼロ―の3点だ。GDP600兆円というのは現在が500兆円だから、あと100兆円を積み増ししなければならないが、景気に勢いさえ出てくれば可能なのではないか。
 安倍首相は口を開けば「岩盤規制を打ち壊さなければならない」と言う。岩盤規制というのは例えば国有鉄道を「分割・民営化」するような改革だ。この改革は中曽根元首相が、経団連の土光敏夫会長を担ぎ出して“土光臨調”を結成。族議員やファミリー企業200社の反対を押え込んで成功した。当時、国鉄が垂れ流していた補助金は2兆円。分割・民営化後には補助金がなくなって、JR7社で法人税、事業税を7000億円納めるようになった。黙っていても国民は2兆7000億円得をすることになったのである。
 国鉄は国有・国営の形態だったが、電力事業はさながら民有・国営の趣だった。電気設備や事業は民営だったが、そこにかかる経費一切を国に届けて、一切を電気料金で賄うように経産省が案配するというものである。電力会社の生産性を厳しく見ないで、経費を全部、国民から巻き上げるなら経営は楽だ。これを「総括原価方式」と言っているが、この方式を担保するために、エネルギー庁長官が東京電力の副社長に収まることが常となっていた。各ブロックで電力会社が経団連会長を務めているが、これはファミリー企業から製品をいい値で買い上げる殿様だ。関西電力だけは関西の代表ではないが、橋下徹大阪知事(当時)は関西の株主(知事)として「総括原価方式」を叩きまくった。この結果、福島第一原発の事故をきっかけに、電力会社は発電と送電が分離された。発電には競争が導入され、電力料金は会社の裁量事項となった。民有・民営になったのだ。
 残る岩盤規制の最たるものは農業分野だ。60年代に「農業近代化資金」が創設された。これは農協が集める資金に、国が利子補給して農民に安く貸し出す制度である。農水省は自分のことを良く聞く県には利子補給の総額を多めに出すとか、反抗的な県には減らすなどの裁量ができる。要するに農協は地方自治体と密着し、県やブロック局に行政機関の如く組み込まれてしまった。田んぼは民有ながら営業も資金も国が助けてやっている姿である。型を変えた民有・国営と言える。
 安倍首相はまず農協が自由に活動できるように、700農協の活動を監査する権限を有するJA全中の監査機能を外した。これまでの全中は県連―農協と続く農協系統組織に君臨していたが、農業の活動を自由化、活発化することに消極的すぎた。
 多収穫米への品種改良は事実上禁止されている。カリフォルニアでは直播きにも拘らず、日本米より収穫量が多い。スシ用のコメの栽培もやって、世界中に輸出している。今こそ農協は700の商社に変身すべきだ。

(平成28年1月6日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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