学生諸君!国際情勢に疎い政治家に弄ばれるな
―冷静に「抑止力」の重要性を再考せよ―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 高校生のシールズという反戦団体が「戦争法反対」のデモをやっている。これをけしかけているのは“革新的学者”と言われている連中だ。民主党の主流派、維新も“反戦争運動”に賛成らしい。社民党の又市征治幹事長は「安倍政権が中国を刺激するからおかしくなる」などと言っている。日米安保条約による集団的自衛権の行使に踏み切ったから、日本が危くなったとか、米国の戦争に巻き込まれるなどという類は国際情勢の根本を見間違っている。戦後、日本の軍事力は今回の新安保法まで、相手の戦力に応じて高められてきた。高めているからこそ中国も攻めて来られないのだ。仮に中国が諦めてくれれば日本の平和、アジアの平和がもたらされるはずだ。しかし、中国は日本を含めたグァムまでの“第2列島線”までを自らの勢力圏に入れようと必死になっている。
 核保有国の宿命のようなものだが、核の攻撃力を持つ国は、相手が核攻撃をしてくれば“全滅”の危険がある。仮に米国がロシア、ないし中国から全核基地に先制攻撃を受けたとしても、米国はそれに備えて核ミサイルを積んだ潜水艦を全世界の海に遊弋させている。本土が全部やられても必ず報復できるからだ。この潜水艦が抑止力となっているからこそ、米国は攻撃されない。
 今、日豪間で潜水艦技術の交流が行われようとしているのは、復讐的攻撃をしようというのではない。中国の潜水艦の活動を抑止するためだ。
 中国は長距離核ミサイルを最低2000発持っていると言われる。因みにロシアは8000発、アメリカは6000発。可能性としては、中国は米(ロシアも)を全滅させることはできるが、米(或いはロシア)の潜水艦による核ミサイルの報復を受けるのは必至だ。この逆の場合を想定してみる。米(或いはロシア)が中国を先制して叩いたとすると中国は米やロシアに報復することができない。従って、現有核ミサイルがやられたら国は破滅する。そこで中国が今懸命に準備しつつあるのが潜水艦技術の向上と、常時、大洋を遊弋できるスペースなのである。
 北朝鮮は先日、人工衛星と称してミサイルを打ち上げたが、それに先立って潜水艦からミサイルを発射して失敗した。何故、内陸国とも言える北朝鮮が潜水艦に拘るかと言えば、これが核保有国共通の心理なのである。「全滅された時にも報復できる」。これが備わらないと核大国とは言えない。
 中国はその大国完成の直前にある。沖縄、南西諸島、南シナ海を結ぶラインを中国は第1列島線と言うが、これを破って外洋に出るのが悲願だ。これには尖閣も南シナ海も必要で、中国にとって「核心的利益」なのである。特に南シナ海は3000メートル級の深さがあり、潜水艦には不可欠な海なのだ。中国は2020年までに日本の外側からグァムに延びる第2列島線を手に入れる計画だという。日本の新安保法制は、中国の外への膨張を止めることができるだろうか。尖閣を獲られたら取り返す力が必要だ。

(平成28年2月24日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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